
ボリュームチェックの自動化に挑むAIエンジニアが見つめる、不動産業界の今と将来とは
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こんにちは!つくるAIの福山です。
今回は、前回の、元用地マンである新家隆介さんのインタビューに続いて、次に弊社でAIエンジニアのリーダーとして活躍する新谷健さんにインタビューさせていただきました!
新谷さんは、2023年4月、エンジニアが一人もいない中でつくるAIにジョインし、ボリュームチェックサービスの開発をリードしてきました。
不動産業界のDX化に、AIエンジニアはどのような思いで向き合い、プロダクトを開発しているのでしょうか。
1.自己紹介:エンジニアとして博士課程も経験してから、不動産DXの仕事に就くまで
福山) つくるAI以前のご経歴を教えてください。
新谷) 京都大学の情報学修士を卒業後、2017年フォルシア㈱に入社し、ソフトウェアエンジニアとして働きながら、システム開発の会社でお客様と要件を決め、プロダクト開発をしていました。
純粋にものづくりが好きな気持ちで働いていました。
エンジニアとして働いていましたが、研究が国際ジャーナルに掲載されたことから会社から博士課程にも行かせてもらいました。
経営企画エンジニアとして産学連携プロジェクトを立ち上げ、研究成果を新規事業に活かし、事業をリードする役割を担っていました。
研究は経済物理学を専門とし、数学、物理学、経済学、データサイエンスなどさまざまな側面を取り入れた、学際的な研究を行っていました。
僕の研究は一貫して、難しさというよりも、見方として新しいか、に重きがありました。
ゆえに先行研究論文ばかりを読むのではなく、周辺の一般誌も読み、新しい見方ができないか、ということを考えて取り組んでいました。
教授からは「新しいと思うけど先行研究は本当にないのか」ということをよく聞かれました。
先人の道の先を発見するのも重要ですが、違った角度から物事を見つめ、「世の中の構造は、このような角度から見つめれば、このようになっているんだ」ということの発見が好きです。
福山) 経済学やデータサイエンスに興味をもったのはいつ頃からですか。
新谷) 若干脱線しますが、物心つく前からパズルや算数の問題が好きでした。
目に見える想像しやすい解き方ではなく、裏をかいた思考パターンによりつながっていくような別解を探し、解けたときのGOALにわくわくしながら取り組むことが好きで、昔から普通のことをやっても面白くないなと思っていました。
学生期には、世の中全体に対してもそういう見方をするようになりました。
新しい社会の見方の発見や浸透は面白いが、それには普通でない思考パターンを使う必要がある。
数学や研究は、比較的机上で証明終了しますが、新しいあり方を実社会で証明していくためには、その仮説がスタートです。
そして、それに取り組む人は、必ず最初の少数派です。
さらに経済物理を学ぶ中で、冪乗則(べきじょうそく)という世の中に普遍的に存在する、分布の性質のことを知りました。
これは、少数派が大きな影響力を持っているという構造です。
これらの思考が重なり合い、新しいあり方を浸透させる、社会を変える最初の少数派でいたいという想いを持つようになりました。
歴史を見れば、最初の少数派が、大きなダイナミクスを産み、多数派に浸透して、世の中のスタンダードとなる事例はいくつもあります。
そういった”最初の少数派”になりたいという思いは常にあります。
スタートアップに所属することはそのための手段になっています。
2.入社から現在にかけて:ボリュームチェックを自動化するに至った経緯
福山) トグルホールディングス(以下、トグル)に入社された背景を教えてください
※つくるAIはトグルホールディングスグループの子会社です
新谷) トグルが解決しようとしている不動産業界の課題に、とても共感しました。
どうしても解決しなきゃいけないと思いました。
使命感というと大層な感じですけど、表現としては近いと思います。
僕は「フェア」という考え方が好きです。
不動産・建築・金融領域は、市場構造としてなかなかフェアとは言いがたいと感じていたため、今のミッションに共感しました。
テクノロジーは、裏をかいた思考パターンを産みやすいです。
そういったテクノロジー参入の余地が大きく、新しいあり方を見出して浸透に取り組んでいくのは、自分の求めていたことだと感じて入社を決めました。
当時、まだエンジニアは誰もいませんでした。
福山) そうだったんですね。
ちなみに、製品開発の前に業界を理解するために実際に不動産の用地仕入れもなさっていたとのことですが、どのような業務をなさっていたんですか?
新谷) やっていた業務は、サービスの一環として仕入れたい土地の要望を聞いてお客様の土地の仕入れ代行のようなことをしていました。
お客様がシェアハウス用地を探してらっしゃる業者様だったのですが、当時はまだVCライトや物件管理もなかったので、とってきた物件情報に結構な工数をかけてボリュームを入れていたんです。
ですが、ツールがうまく使えなかったうえにツールでボリュームを出しても設計士の出すボリュームと全然消化容積が合わないことに苦しみました。
例えば、そのツールでボリュームを簡単に入れたら50部屋入りそうだったので、収支が合いそうだと思って実際にボリュームを依頼してみると設計士の方から40部屋で出てきたりして「全然食えないじゃんこれ」みたいなこともよくありましたね。
AIエンジニアながら仕入れ業務をしてみて何か気付きはありましたか?
新谷) そうですね、気づきは主に2つありました。
まず、ボリュームチェックに対する不動産業界の課題の深さですね。
先ほどもお伝えしたように、ボリュームを入れて全然食えない、ということもあったので、課題の難しさと便利になった時のインパクトを身をもって感じましたね。
次に、業界において物件情報がどれだけ大事に扱われているかの実感も大きな気づきの1つですね。
世の中には多くマッチングプラットフォームが存在していますが、仕入れ業務をする前の僕はそれらのプラットフォームのようなものを作って、物件が流通する箱のようなものを作れば使っていただけるのではないかと思っていました。
ですが、実際に仲介の方とコミュニケーションをしてみて、皆さんが如何に秘匿性高いものとして土地情報を扱ってらっしゃって、現実は僕の抱いていたイメージと異なっていることも身をもって実感することが出来ました。
仲介の方からいただく物件情報はボリュームを入れると食えないこともありましたが、仲介の方が非常に物件情報を大事に扱ってらっしゃって、多くいる紹介先の中で僕を選んで紹介してくださっていることも理解していたからこそ、「検討してみましたが無理でした」と断ることに心苦しさや申し訳なさも感じました。
仕入れ業務を行うことを通じて、案件検討の効率を上げるポテンシャルが大きいことを改めて感じました。
福山) 現在携わっているプロダクトやご自身の役割について教えてください。
新谷) 期待されている役割は、入社当時から変わらず「AI開発のマネージャー」です。
今現場で起きていることを、先端技術を使ってどのように解決できるか、というチャレンジの連続です。
まさに、今までにない発想を必要とする上に、高い技術実装力も必要となります。
最近だと、VCライトというプロダクトは、僕のチームで開発しました。
土地の価値を左右する最大の要因は、そこにどんなサイズ(容積)の建物が建てられるか、にあります。
従来は、さまざまな調査や複雑な設定入力を必要としていた建物推定を、スマホでワンタッチでおこなうことを可能にしました。
独自の測量技術や、最適化技術を結集させた結果です。
抜本的に新しい体験で、業界に広く使っていただけるプロダクトに成長していくと確信しています。
※「つくるAI VCライト」は、旧「つくるAI 物件管理」とサービス統合を行い、「つくるAI デベNAVI」としてリリースされました。
3.今後の展望:つくるAIが見据える、用地仕入れの将来とは
福山) 今後はどのようなことに取り組んでいきたいですか?
新谷) そうですね、まだ未来の話にはなりますが、土地の一番良い活用方法がすぐにわかるといいなと思っているので、街やその土地にとって、どのようなプランで建物が建てるのが最適か分かるような世界線を目指していきたいですね。
一瞬でその土地に入るプランが分かると需要と供給がすぐに分かってデベロッパーの皆さんが非常に楽になりますし、一番いい土地活用ができるようになるので、弊社がミッションとして掲げる「すべてのまちと、まちをつくる人たちのために」の実現に近づくと思います。
つくるAIは不動産・建築・金融領域に向き合い、地図や画像、3D図面、取引事例など、さまざまな高次元データを扱っています。
僕たちのやるべきことは、これらの複合的なデータに対する高度な解析を通じた利用と、機械学習や最適化をはじめとする数学的な技術を掛け合わせて、業界における業務の生産性を爆上げするプロダクトを開発することだと思っていいます。
福山) 具体的に、どのような機能が開発されていく予定なんですか?
新谷) 今後は具体的には2つ検討しています。
土地案件検討の最大の起点となるのはボリュームチェックなので、まず逆日影と逆天空をVCライトに実装することですね。
人間には日影規制と天空率による斜線の緩和は判断しにくいですが、これをAIを用いて分かるようにしていくことで、「そんなところにも貸床が生まれるのか」という体験をデベロッパーの皆さんにしていただきたいと思っています。
次にすべての不動産の案件検討を3Dでできるようにデジタルツインを促進していくことですね。これを実装していくにあたって、目に触れるすべての物件情報が3Dになっていくようになります。
GISやLLM、デジタルツイン3Dや、建物図面の生成および解析、投資シミュレーションなど、数理的にもデータ構造的にも難しいテーマがたくさんありますが、今後も一つ一つの山を超えて、大きなデジタル産業インフラの構築に取り組んでいきたいと思います。
※「つくるAI VCライト」は、旧「つくるAI 物件管理」とサービス統合を行い、「つくるAI デベNAVI」としてリリースされました。
新谷さん、ありがとうございました!