catch-img

日影規制と既存不適格建築物|増築時の注意点と緩和措置を解説


目次[非表示]

  1. 1.「既存不適格建築物」とは?基本をおさらい
    1. 1.1. 既存不適格が生まれる背景(法改正・都市計画変更)
    2. 1.2. 既存不適格と違反建築物の違い
    3. 1.3. なぜ既存不適格建築物は存続できるのか?
  2. 2.日影規制における既存不適格建築物の扱い
    1. 2.1. 原則:日影規制は遡及適用されない
    2. 2.2. 日影規制が新たに適用された場合の既存不適格
    3. 2.3. 既存不適格であることの確認方法
  3. 3.日影規制と既存不適格|増築・改築時のポイント
    1. 3.1. 増築・改築時の原則的な考え方
    2. 3.2. 緩和措置が適用されるケース(建築基準法第86条の7)
    3. 3.3. 日影規制に関する緩和の具体的な内容
    4. 3.4. 増築部分が日影規制に与える影響の検討
  4. 4.既存不適格建築物の日影規制に関する注意点
    1. 4.1. 地方公共団体の条例の確認
    2. 4.2. 大規模修繕・模様替の場合
    3. 4.3. 専門家への相談の重要性
  5. 5.まとめ

都市の発展とともに、建築基準法や都市計画は時代に合わせて見直されてきました。その結果、建築当時は適法であったものの、現在の法律や規制に適合しなくなった「既存不適格建築物」が数多く存在します。特に、周辺の日照環境を守るための「日影規制」は、後から導入されたり強化されたりすることが多く、既存不適格となる原因の一つです。

では、日影規制に適合しない既存不適格建築物を所有している場合、増築や改築は可能なのでしょうか?この記事では、「日影規制 既存不適格」というテーマに焦点を当て、既存不適格建築物の基本的な知識から、日影規制との関係、そして増築・改築時の具体的な注意点や緩和措置について、建築関係者や不動産関係者の皆様に向けて詳しく解説します。

1.「既存不適格建築物」とは?基本をおさらい

まず、日影規制と既存不適格の関係を理解する上で、そもそも「既存不適格建築物」とは何か、その基本的な概念を正しく把握しておくことが重要です。

1.1. 既存不適格が生まれる背景(法改正・都市計画変更)

既存不適格建築物とは、建築された時点では当時の建築基準法や関連法令に適合していたものの、その後の法改正や都市計画の変更(用途地域の変更など)によって、現行の法令に適合しなくなった建築物を指します。
例えば、以下のようなケースで既存不適格となることがあります。

  • 日影規制の導入・強化:以前は日影規制がなかった地域に新たに規制が導入されたり、規制時間が厳しくなったりした場合、既存の建物が現行の日影規制を満たさなくなることがあります。
  • 用途地域の変更:住居系の地域が商業系の地域に変更される、あるいはその逆の場合、適用される建蔽率、容積率、高さ制限、そして日影規制などが変わり、既存の建物が不適格となることがあります。
  • その他の法改正:耐震基準の強化や防火・避難規定の変更など、様々な法改正が既存不適格を生む原因となります。


重要なのは、これらは意図的に法を破ったわけではなく、あくまで法制度の変更という外的要因によって生じたものであるという点です。


1.2. 既存不適格と違反建築物の違い


既存不適格建築物と混同されやすいのが「違反建築物」です。この二つは明確に異なります。

  • 既存不適格建築物:建築時には適法だったが、後の法改正等により現行法規に適合しなくなったもの。
  • 違反建築物:建築された当初から建築基準法や関連法令に違反して建てられたもの、または無許可で増改築を行い違反状態になったもの。

違反建築物は是正指導や使用禁止、場合によっては撤去命令の対象となる違法な状態です。一方、既存不適格建築物は、違法ではありません。この違いを理解することは、不動産取引や建築計画において非常に重要です。


1.3. なぜ既存不適格建築物は存続できるのか?


建築時には適法だったにも関わらず、法改正のたびに既存の建物をすべて現行法規に適合させなければならないとすると、国民の財産権に大きな影響を与え、社会的な混乱を招きます。そのため、建築基準法では「法の不遡及(そきゅう)の原則」に基づき、既存不適格建築物がそのまま存続することを認めています。


建築基準法第3条第2項では、法令が施行・適用された際に既に存在している建築物や、工事中の建築物については、原則として新たな規定を適用しない(遡及適用しない)と定められています。これにより、既存不適格建築物は、違法とされることなく、そのまま使用し続けることが可能です。ただし、これはあくまで「何もしなければ」の話であり、増築や改築を行う際には、新たな法的課題が生じます。

2.日影規制における既存不適格建築物の扱い


では、具体的に「日影規制」という観点から見た場合、既存不適格建築物はどのように扱われるのでしょうか。


2.1. 原則:日影規制は遡及適用されない


前述の建築基準法第3条第2項の原則に基づき、日影規制についても、新たに導入されたり強化されたりした場合でも、既存の建築物には原則として遡及適用されません。したがって、新たに導入された日影規制によって既存の建物が不適格となったとしても、それ自体が違法となるわけではなく、直ちに是正を求められることはありません。


このため、都市部には、現行の日影規制をクリアできないであろう建物が、既存不適格建築物として数多く存在しています。これらの建物は、日影規制がなかった時代、あるいは緩やかだった時代に建てられたものがほとんどです。


2.2. 日影規制が新たに適用された場合の既存不適格


ある地域に新たに日影規制が適用された、または規制内容が変更されたとします。その時点で存在していた建物Aが、新しい日影規制の基準(例えば、冬至日に敷地境界線から10mの範囲で4時間以上の日影を生じさせてはならない)を満たしていなかった場合、この建物Aは「日影規制に関する既存不適格建築物」となります。


この建物Aは、そのまま使用し続ける限りは問題ありません。しかし、所有者がこの建物Aを増築しようと考えた場合、話は変わってきます。増築行為は、新たな建築行為とみなされるため、原則として現行の建築基準法(日影規制を含む)に適合させる必要が出てくるのです。これが、「日影規制 既存不適格 増築」というキーワードで検索される、多くの人が抱える疑問の核心部分です。


2.3. 既存不適格であることの確認方法


所有する建物が既存不適格建築物であるかどうか、特に日影規制に関して不適格かどうかを確認するには、いくつかの方法があります。

  • 建築確認済証・検査済証の確認:建築時の確認済証や検査済証、そしてその際に提出された設計図書を確認することで、建築当時の法令や、どのような基準で建てられたかを知ることができます。
  • 現行法規との照合:現在の都市計画(用途地域など)や建築基準法、そして地方公共団体の条例(日影規制の内容を含む)を調査し、現状の建物がこれらに適合しているかを比較検討します。
  • 専門家による調査:建築士などの専門家に依頼し、現地調査や法規調査を行ってもらうのが最も確実な方法です。特に日影規制は計算が複雑なため、専門家による日影図の作成やシミュレーションが必要となる場合があります。


これらの調査を通じて、建物が日影規制に関して既存不適格であるかどうかを正確に把握することが、増築などを検討する第一歩となります。

3.日影規制と既存不適格|増築・改築時のポイント


日影規制に関して既存不適格である建築物を増築・改築する場合、どのような点に注意し、どのような手続きが必要になるのでしょうか。ここでは、そのポイントと緩和措置について解説します。


3.1. 増築・改築時の原則的な考え方


既存不適格建築物を増築・改築する場合、原則として増築・改築する部分だけでなく、建物全体が現行の建築基準法に適合している必要があります。これは、法の不遡及の原則が、あくまで「既存のまま存続する場合」に適用されるものであり、新たな建築行為を行う際には現行法規を守るべき、という考え方に基づいています。


したがって、日影規制に関して既存不適格な建物を増築しようとすると、増築部分を含めた建物全体で現行の日影規制をクリアする必要が生じるのが原則です。これは、多くの場合、増築を非常に困難にする、あるいは不可能にする可能性があります。


3.2. 緩和措置が適用されるケース(建築基準法第86条の7)


しかし、この原則を厳格に適用すると、既存不適格建築物の有効活用や改善が進まなくなってしまいます。そこで、建築基準法では、一定の条件下で既存不適格建築物の増築・改築を容易にするための緩和措置を設けています。その中心となるのが、建築基準法第86条の7「既存の建築物に対する制限の緩和」です。


この条文では、既存不適格建築物について、一定の範囲内の増築・改築・大規模修繕などを行う場合に、現行法規の一部を適用しない、または緩和することができると定められています。これにより、既存不適格建築物であっても、一定の条件を満たせば増築などが可能になります。


3.3. 日影規制に関する緩和の具体的な内容


では、日影規制に関して、建築基準法第86条の7はどのように適用されるのでしょうか。日影規制は「集団規定」の一つであり、個々の建物の安全性だけでなく、周辺環境との関係を律する規定です。そのため、緩和の適用には慎重な判断が求められます。


一般的に、第86条の7による緩和は、増築・改築後においても、既存不適格であった状況を「悪化させない」ことが基本的な考え方となります。日影規制に関しては、以下のような点がポイントになります。


増築部分が新たに日影を増やさないか:増築する部分が、現行の日影規制に照らして、既存の状態よりも日影時間を増加させたり、新たに規制ラインを越える日影を生じさせたりしないことが重要です。
緩和の範囲:増築の規模(面積や高さ)によっては、緩和が認められない場合や、特定の条件が付される場合があります。
特定行政庁の判断:最終的な緩和適用の可否や条件は、個別の案件ごとに特定行政庁(都道府県知事や市町村長)が判断します。そのため、事前の相談が不可欠です。


日影規制に関する既存不適格の緩和は、非常に専門的で複雑です。単純に「増築できる」と考えるのではなく、増築部分が日影に与える影響を詳細に検討し、緩和規定を正しく理解する必要があります。


3.4. 増築部分が日影規制に与える影響の検討


増築を計画する際には、まず増築部分が日影にどのような影響を与えるかを、日影図を用いてシミュレーションする必要があります。

  • 増築前の日影図:現在の建物が、現行の日影規制に照らしてどのような日影を落としているか(既存不適格の状態)を把握します。
  • 増築後の日影図:増築案に基づき、増築後の建物が落とす日影をシミュレーションします。
  • 比較検討:増築前後を比較し、日影時間が増加していないか、規制ラインを超える日影が増えていないかなどを確認します。

この検討結果に基づき、緩和措置の適用可能性があるか、あるいは増築計画を見直す必要があるかを判断します。場合によっては、増築部分の形状や配置を工夫することで、日影への影響を最小限に抑え、規制をクリアしたり、緩和を受けやすくしたりすることが可能です。


4.既存不適格建築物の日影規制に関する注意点


最後に、日影規制と既存不適格建築物を取り扱う上で、特に注意すべき点をいくつか挙げます。


4.1. 地方公共団体の条例の確認


日影規制の具体的な内容は、建築基準法だけでなく、地方公共団体が定める条例によって規定されていることが多いです。既存不適格に関する緩和措置の運用についても、各地方公共団体で見解や取り扱いが異なる場合があります。


したがって、計画地の地方公共団体の建築指導担当部署に必ず事前に相談し、適用される条例の内容や、既存不適格建築物の増築に関する具体的な取り扱い、緩和措置の適用要件などを詳細に確認することが絶対に必要です。インターネット上の情報や一般的な知識だけで判断するのは非常に危険です。


4.2. 大規模修繕・模様替の場合


増築だけでなく、大規模な修繕や模様替えを行う際にも、既存不適格建築物の扱いや日影規制が問題となることがあります。建築基準法第86条の7では、大規模修繕・模様替についても緩和規定が設けられていますが、その範囲や条件を確認する必要があります。


原則として、既存の状態を悪化させない範囲での修繕・模様替えであれば緩和の対象となりやすいですが、建物の用途を変更する場合などは、より厳しい基準が適用される可能性があります。


4.3. 専門家への相談の重要性


これまで述べてきたように、日影規制と既存不適格建築物の問題は、法的な解釈や技術的な計算が複雑に絡み合います。特に増築時の緩和措置の適用については、高度な専門知識と経験が求められます。


安易な自己判断は、後々のトラブルや法的な問題を引き起こす原因となりかねません。計画の早い段階から、建築士や建築法規に詳しい専門家に相談し、適切なアドバイスを受けながら進めることが、最も安全で確実な方法です。専門家は、法規の解釈だけでなく、日影シミュレーションや特定行政庁との協議代行なども行ってくれます。

5.まとめ


「日影規制 既存不適格」というテーマは、多くの既存建築物の所有者や、それらを取り扱う建築・不動産関係者にとって、避けては通れない重要な課題です。既存不適格建築物は、法改正の歴史の中で生まれたものであり、違法ではありませんが、増築や改築を行う際には現行の日影規制への適合が原則として求められます。


しかし、建築基準法第86条の7には緩和措置が設けられており、一定の条件下では増築などが可能です。その鍵となるのは、「既存の状態を悪化させない」という考え方と、日影図を用いた詳細な影響検討、そして何よりも計画地の地方公共団体や専門家との緊密な連携です。日影規制と既存不適格に関する正しい知識を身につけ、適切な手順を踏むことで、既存ストックの有効活用と良好な都市環境の維持を両立させることができるでしょう。

おすすめ資料

東京の再開発

「東京の法定再開発」完全ガイド

建築基準法改正

建築基準法の改正で注意すべきこと

人気記事ランキング

サービス

デベNAVIとは

つくるAIの提供するボリュームチェックツール「つくるAI デベNAVI」についてご説明します。

タグ一覧

つくるAI株式会社はトグルホールディングスグループの一員です。

トグルホールディングスは、すべてのまちと、まちをつくる人たちのために、「不動産」「建築」「金融」に関わる様々な取引をわずか1日で完遂できる社会を実現していきます。