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近隣商業地域の日影規制を徹底解説!北側斜線不要の理由と高さ制限のポイント


目次[非表示]

  1. 1.近隣商業地域と日影規制の基本関係
    1. 1.1. そもそも「近隣商業地域」とはどんなエリアか?
    2. 1.2. 日影規制は適用される?「商業地域」との決定的な違い
    3. 1.3. なぜ住居系地域ではないのに日影規制の対象なのか?
  2. 2.近隣商業地域における日影規制の具体的な内容
    1. 2.1. 規制対象となる建築物(高さ10m超)
    2. 2.2. 測定水平面の高さ(4mが一般的)
    3. 2.3. 適用される日影時間の種別(例:4h-2.5h , 5h-3h)
  3. 3.【最重要】他の高さ制限との関係性を読み解く
    1. 3.1. 最大の特徴:「北側斜線制限」が適用されないこと
    2. 3.2. 北側斜線の代わりに「日影規制」が果たす重要な役割
    3. 3.3. 道路斜線・隣地斜線との複合的な検討が鍵
  4. 4.高容積率を活かす!建築計画と日影規制の攻略法
    1. 4.1. 店舗・事務所付き高層マンション計画での注意点
    2. 4.2. 緩和規定(角地、道路幅員など)の戦略的活用
    3. 4.3. ボリューム確保と規制クリアを両立する設計テクニック
  5. 5.まとめ

店舗や事務所が立ち並び、高い利便性を持つ「近隣商業地域」。この地域は容積率が高く設定されていることもあり、土地活用において非常に魅力的なエリアです。しかし、高層の建物を計画する際には、高さに関する様々な規制が関わってきます。その中でも特に複雑で、設計を大きく左右するのが「日影規制」です。


「商業」と名がつくのに日影規制は適用されるのか?隣の商業地域とは何が違うのか?そして、この地域最大の建築的特徴である「北側斜線制限が適用されない」ことは、日影規制にどう影響するのでしょうか。


この記事では、近隣商業地域での土地活用や建築計画に携わる方々に向けて、この地域特有の日影規制の内容と、他の高さ制限との重要な関係性を、専門的かつ分かりやすく解き明かしていきます。

1.近隣商業地域と日影規制の基本関係

まず、近隣商業地域がどのような特性を持つエリアで、日影規制とどう関わっているのか、その基本から押さえていきましょう。

1.1. そもそも「近隣商業地域」とはどんなエリアか?

近隣商業地域とは、都市計画法で定められた用途地域の一つです。その名の通り、近隣の住民が日用品の買い物などをするための、利便性の高い商業施設が集まるエリアを想定しています。


具体的には、スーパーマーケット、商店街、飲食店といった店舗のほか、事務所(オフィスビル)なども建築可能です。さらに、住居(戸建て、マンション)の建築も認められており、「商業」と「住居」の機能が混在しているのが大きな特徴です。この「住・商混在」という特性が、後述する日影規制の扱いに大きく影響してきます。

1.2. 日影規制は適用される?「商業地域」との決定的な違い

結論から言うと、近隣商業地域では、原則として日影規制が適用されます。これは、ターミナル駅周辺の繁華街などを想定した「商業地域」との決定的な違いです。

  • 近隣商業地域: 原則、日影規制の対象となる。
  • 商業地域: 原則、日影規制の対象外となる

商業地域では、都市機能の高度化や商業活動の集積が最優先されるため、日照に関する制約は基本的にありません。一方で、近隣商業地域はあくまで「近隣住民の利便性」を目的としており、その背後には住宅地が広がっているケースが多くあります。そのため、商業の利便性を高めつつも、周辺の住環境、特に日照への配慮が必要とされるのです。この点が、近隣商業地域に日影規制が適用される理由です。

1.3. なぜ住居系地域ではないのに日影規制の対象なのか?

前述の通り、近隣商業地域に日影規制が適用されるのは、周辺の住居系地域の日照環境を保護するためです。


建築基準法では、日影規制を適用する区域を地方公共団体が条例で指定できることになっています。そして、多くの自治体では、商業地域や工業専用地域などを除くほとんどの用途地域を日影規制の対象としています。


近隣商業地域は、第一種・第二種住居地域などと隣接していることが多く、この地域に高層の建物が無秩序に建てられると、隣の住居地域に深刻な日影被害を及ぼす可能性があります。こうした事態を防ぎ、用途地域の境界を越えて良好な市街地環境を形成するために、近隣商業地域の日影規制は重要な役割を担っているのです。


2.近隣商業地域における日影規制の具体的な内容

では、近隣商業地域では、具体的にどのような日影規制が適用されるのでしょうか。その内容は地方公共団体の条例で定められますが、一般的には以下のようなケースが多く見られます。

2.1. 規制対象となる建築物(高さ10m超)

近隣商業地域において日影規制の対象となるのは、原則として高さが10mを超える建築物です。これは、住居系の地域(軒高7m超または3階建て以上)よりも基準が緩やかになっています。つまり、3階建て程度の低層の建物であれば、日影規制を考慮する必要がないケースが多いということです。しかし、4階建て以上のマンションやオフィスビルなど、高さ10mを超える建物を計画する際には、必ず日影規制の検討が必要となります。

2.2. 測定水平面の高さ(4mが一般的)

日影時間を測定する基準面の高さ(測定水平面)は、用途地域ごとにいくつかの種類が定められています。近隣商業地域の場合、平均地盤面から4mの高さで測定するよう指定されているのが一般的です。


これは、低層住居専用地域などで適用される1.5m(1階の窓を想定)よりも高い位置に設定されています。周辺にある程度高さのある建物が存在することを前提としつつも、マンションの2階部分などへの日照には配慮するという、この地域ならではのバランスを考慮した設定と言えるでしょう。自治体によっては6.5mを選択している場合もあります。

2.3. 適用される日影時間の種別(例:4h-2.5h , 5h-3h)

一日の中で影になっても良いとされる時間(日影時間)も、いくつかの種別があります。近隣商業地域で適用されることが多いのは、以下の2つのパターンです。

  • 5時間-3時間(5h-3h): 敷地境界線から5m~10mの範囲は5時間、10mを超える範囲は3時間まで日影が許容される。
  • 4時間-2.5時間(4h-2.5h): 同じく、5m~10mの範囲は4時間、10mを超える範囲は2.5時間まで許容される。

どちらも比較的緩やかな規制内容であり、ある程度の高さの建物を建てることを許容しつつ、最低限の日照を確保するためのルールとなっています。どちらが適用されるかは、計画地の自治体の条例を必ず確認する必要があります。


3.【最重要】他の高さ制限との関係性を読み解く

近隣商業地域での建築計画において、日影規制と合わせて理解しておくべき最も重要なポイントが、他の高さ制限との関係性です。

3.1. 最大の特徴:「北側斜線制限」が適用されないこと

建築物の高さを制限するルールの一つに「北側斜線制限」があります。これは、北側隣地の日照を確保するため、北側隣地境界線の上空に引かれる仮想の斜線より高く建物を建ててはならない、という厳しい規制です。


しかし、近隣商業地域では、この北側斜線制限が適用されません。 これは、設計上の自由度を大きく高める、非常に重要なポイントです。北側斜線制限を気にすることなく、敷地の北側まで建物を建てることが可能になります。

3.2. 北側斜線の代わりに「日影規制」が果たす重要な役割

では、なぜ北側斜線制限がないのでしょうか。それは、北側隣地の日照確保という役割を、代わりに近隣商業地域の日影規制が担っているからです。

  • 住居系地域: 北側斜線制限(形態規制)と日影規制(性能規制)の両方で日照を確保する。
  • 近隣商業地域: 北側斜線制限はなく、日影規制のみで日照を確保する。

北側斜線という画一的な形態規制をなくす代わりに、「実際に落ちる影の時間」をコントロールする日影規制に一本化することで、より合理的で設計自由度の高い規制体系となっているのです。この点を理解せずに「北側斜線がないから高く建てられる」とだけ考えていると、日影規制で計画が頓挫する可能性があるため、注意が必要です。

3.3. 道路斜線・隣地斜線との複合的な検討が鍵

北側斜線はありませんが、もちろん他の高さ制限がなくなるわけではありません。道路の幅員に応じて高さを制限する「道路斜線制限」や、隣地境界線からの距離で高さを制限する「隣地斜線制限」は、近隣商業地域でも適用されます。


したがって、最終的に建築可能な建物のボリュームは、

  • 日影規制
  • 道路斜線制限
  • 隣地斜線制限
  • 容積率

これらの規制の中で、最も厳しい条件によって決定されます。どの規制が一番厳しく作用する(クリティカルになる)かを見極め、複合的に検討することが、近隣商業地域での設計の鍵となります。

4.高容積率を活かす!建築計画と日影規制の攻略法

高い容積率が設定されていることが多い近隣商業地域。そのポテンシャルを最大限に活かしつつ、日影規制をクリアするための実践的なポイントを見ていきましょう。

4.1. 店舗・事務所付き高層マンション計画での注意点

近隣商業地域では、1階や低層部を店舗や事務所、中高層部を共同住宅(マンション)とする複合用途の建築物が多く計画されます。このような場合、日影規制は建物全体に適用されるため、特に建物の北側の形状が重要になります。


北側斜線がないからといって、敷地いっぱいに真四角の建物を高く建ててしまうと、日影規制をクリアするのは困難です。建物の北側の上部をセットバックさせたり、建物全体の配置を工夫したりして、北側隣地への日影の影響を軽減する設計が求められます。

4.2. 緩和規定(角地、道路幅員など)の戦略的活用

日影規制には、敷地の条件によって規制が有利になる緩和規定があります。これを戦略的に活用することは、事業性を高める上で非常に重要です。

  • 角地緩和: 敷地が2つ以上の道路に接している場合、日影規制上有利になります。
  • 道路幅員: 敷地に接する道路の幅が広いほど、影の測定開始点が遠くなり、より高さのある建物を計画できます。
  • 高低差: 敷地が道路より高い場合も、緩和を受けられる可能性があります。

これらの緩和規定を最大限に活用できるような土地を選んだり、設計に反映させたりすることが、近隣商業地域の日影規制を攻略する上で有効な戦略となります。

4.3. ボリューム確保と規制クリアを両立する設計テクニック

高い容積率を消化し、必要な床面積を確保しながら日影規制をクリアするには、高度な設計テクニックが必要です。

  • 逆日影計算の活用: 計画初期に、許される日影時間の範囲内で建築可能な最大ボリュームをコンピュータで算出し、事業性を判断します。
  • 天空率の適用: 道路斜線や隣地斜線が厳しく、建物のボリュームが削られてしまう場合に天空率を用いることで、形態の自由度を高めます。その上で、日影規制をクリアするための形状検討を行います。
  • シミュレーションによる最適化: BIM/CIMやCADソフトで日影シミュレーションを行い、ミリ単位で建物の形状を調整し、規制クリアとボリューム確保の最適なバランス点を探ります。

5.まとめ

店舗や住宅が共存する「近隣商業地域」における日影規制は、都市の利便性と周辺の住環境との調和を図るための、巧みなルールです。


最大のポイントは、北側斜線制限が適用されない代わりに、日影規制が北側隣地の日照を確保する役割を担っているという点です。この関係性を正しく理解し、道路斜線や隣地斜線といった他の高さ制限と合わせて複合的に検討することが、この地域での建築計画を成功させる鍵となります。


高い容積率というポテンシャルを秘めた近隣商業地域。本記事で解説した日影規制の知識を活用し、土地の価値を最大限に引き出す計画を実現してください。

つくるAI株式会社 編集部
つくるAI株式会社 編集部
2024年7月、トグルホールディングス株式会社より分社化した「つくるAI株式会社」のメディア編集部。デベロッパー様が土地をもっと買えるようになり、売買仲介様の物件の価値の判断がより正確になるツールを提供しています。

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