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【徹底解説】日影規制と図面の関係|日影図の読み方から作成の注意点まで

目次[非表示]

  1. 1. そもそも日影規制とは?図面が重要になる理由
    1. 1.1. 日影規制の目的と建築における重要性
    2. 1.2. 規制対象となる建築物と区域の確認方法
    3. 1.3. 押さえておくべき規制の3つのポイント
    4. 1.4. なぜ日影規制の確認に「図面」が不可欠なのか
  2. 2. 日影規制の検討で必須となる図面の種類
    1. 2.1. 基本となる建築図面:配置図・平面図・立面図
    2. 2.2. 日影の影響を可視化する「日影図」
    3. 2.3. 「時刻日影図」と「等時間日影図」の違いと使い分け
  3. 3.【実践】日影図の読み方と作成時の注意点
    1. 3.1. 日影図から読み解くべき情報とは?
    2. 3.2. 日影図作成の基本的な流れとツール
    3. 3.3. 図面作成・読解で最も注意すべき3つのポイント
  4. 4. 設計・申請実務における日影規制と図面のポイント
    1. 4.1. 建築確認申請で求められる日影規制関連の図面
    2. 4.2. 設計段階での日影シミュレーションの価値
    3. 4.3. 天空率制度との関係性と緩和の可能性
  5. 5. まとめ

建物を建てる際に避けては通れない「日影規制」。特に住宅地では、近隣の居住環境へ配慮するために非常に重要な法規制です。この複雑な規制を正しく理解し、クリアしていることを証明するために不可欠なのが、専門的な「図面」の存在です。しかし、建築関係者でなければ、どの図面をどのように見れば良いのか、分かりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。

本記事では、建築設計や不動産取引に関わる方が必ず押さえておきたい日影規制の基本から、その確認に必須となる各種図面、特に「日影図」の役割や読み方、作成時の注意点までを網羅的に解説します。この記事を読めば、日影規制に関する図面の知識が深まり、より円滑なプロジェクト進行や、近隣トラブルの未然防止に繋がるはずです。

1. そもそも日影規制とは?図面が重要になる理由

まずはじめに、日影規制の基本的な考え方と、なぜその確認に専門的な図面が不可欠となるのかについて解説します。規制の本質を理解することが、適切な対応への第一歩です。

1.1. 日影規制の目的と建築における重要性

日影規制は、建築基準法に定められた、建物の日当たりを確保するためのルールです。中高層の建築物が、周辺の土地に長時間にわたって日影を落とすことを防ぎ、良好な居住環境を保護することを目的としています。

特に、住宅が密集するエリアでは、日照の確保は住民の健康や快適な生活に直結する重要な要素です。この規制を遵守せずに建物を設計・建築してしまうと、行政からの是正命令を受けたり、最悪の場合、近隣住民との深刻なトラブルに発展したりする可能性があります。そのため、建築プロジェクトの初期段階から、日影規制を正確に理解し、計画に反映させることが極めて重要になります。

1.2. 規制対象となる建築物と区域の確認方法

日影規制は、日本全国どこでも適用されるわけではありません。都市計画法によって定められた特定の「用途地域」内において、一定の高さを超える建築物が対象となります。

具体的には、第一種・第二種低層住居専用地域や、商業地域、工業地域など、それぞれの地域の特性に応じて規制の内容が異なります。自分が計画している土地がどの用途地域に属し、どのような日影規制の対象となるかは、管轄の役所の都市計画課などで確認する必要があります。近年は、多くの自治体がウェブサイトで都市計画図を公開しているため、オンラインでの確認も可能です。計画の第一歩として、この区域の確認を怠らないようにしましょう。

1.3. 押さえておくべき規制の3つのポイント

日影規制の内容は複雑ですが、特に重要なポイントは以下の3つです。これらを理解することで、規制の全体像を掴みやすくなります。

  • 規制を受ける建築物の高さ: 全ての建物が対象ではなく、用途地域ごとに定められた高さを超える建築物が規制対象となります。例えば、低層住居専用地域では軒の高さが7mを超えるもの、または地階を除く階数が3以上のものなどが対象です。

  • 日影時間の測定面(測定水平面)の高さ: 日影を測定する地面からの高さも、用途地域によって定められています。一般的には、1.5m、4m、6.5mのいずれかが指定されます。例えば、1階の窓の中心あたりを想定した1.5m、2階のバルコニーあたりを想定した4mといった具合に、周辺建物のどこに日影を落とすかを基準に高さが設定されています。

  • 規制される時間: 冬至日(一年で最も影が長くなる日)の午前8時から午後4時(北海道の一部では午前9時から午後3時)までの間に、敷地境界線から一定の範囲内に、定められた時間以上の日影を生じさせないように計画する必要があります。この「日影を落としてはいけない時間」は、敷地境界線からの距離(5m超10m以内、10m超)によって異なります。

1.4. なぜ日影規制の確認に「図面」が不可欠なのか

ここまで見てきたように、日影規制は「建物の高さ」「測定面の高さ」「時間」「方角」といった多様な要素が絡み合う、三次元的かつ時間的な制約です。これらの複雑な条件をすべて満たしているか否かを、頭の中や単純な計算だけで判断することは不可能です。

そこで不可欠となるのが、建物の形状や配置、そして時間の経過に伴う影の動きを正確に可視化する「図面」です。特に、影の軌跡を専門的に描いた日影図という図面を用いることで、特定の時刻にどこまで影が伸びるのか、一定時間以上影になる範囲はどこかを正確に把握できます。この図面がなければ、建築基準法を遵守していることの客観的な証明ができず、建築確認申請を通過することもできません。

2. 日影規制の検討で必須となる図面の種類

日影規制を検討する上で、複数の図面を連携させて読み解く必要があります。ここでは、基本となる建築図面と、日影規制検討の主役である「日影図」について解説します。

2.1. 基本となる建築図面:配置図・平面図・立面図

日影規制の検討は、まず基本的な建築図面から始まります。これらの図面が、日影計算の基礎情報となります。

  • 配置図: 敷地に対して建物がどのように配置されるかを示す図面です。敷地の形状、方位(特に真北)、道路や隣地との位置関係が記載されており、日影が敷地外のどこに影響を与えるかを考える上での出発点となります。

  • 平面図: 建物を各階で水平に切断し、真上から見た図面です。壁の位置や部屋の間取りが描かれており、建物の水平方向の形状を把握するために使用します。

  • 立面図: 建物を真横から見た図面です。建物の高さや軒の出、屋根の形状などが正確に表現されており、影の最も大きな原因となる建物の垂直方向の形状を把握するために不可欠な図面です。

これらの図面に描かれた情報を基に、日影計算の対象となる建物の三次元的な形状が特定されます。

2.2. 日影の影響を可視化する「日影図」

日影図は、ある建物が周囲にどのような日影を作るかを、地図上に描き出した専門的な図面です。建築物が太陽の動きによって作り出す影の形と範囲を時間ごとに示し、日影規制をクリアしているかどうかを判断するための最も重要な資料となります。

この日影図があることで、設計者も施主も、そして審査機関も、計画中の建物が周辺の日照環境に与える影響を客観的に評価できます。建物の形状が少し変わるだけで日影の形は大きく変化するため、設計の初期段階から日影図を作成し、シミュレーションを繰り返すことが一般的です。日影規制の検討において、この図面はまさに生命線と言えるでしょう。

2.3. 「時刻日影図」と「等時間日影図」の違いと使い分け

日影図には、主に「時刻日影図」と「等時間日影図」の2種類があり、それぞれ役割が異なります。目的に応じて適切に使い分けることが重要です。

  • 時刻日影図:

    • 役割: 指定した時刻(例:冬至日の午前10時)における建物の影の形を、そのまま地面に投影した図面です。パラパラ漫画のように時間を追って見ていくことで、影がどのように動いていくかを視覚的に把握できます。

    • 用途: 設計の初期段階で、「この時間帯に、隣地のこのあたりに影がかかるのか」といった具体的な影響を確認するのに役立ちます。また、近隣住民へ説明する際にも、分かりやすい資料となります。

  • 等時間日影図:

    • 役割: 敷地境界線の外側で、一定時間以上日影になる範囲を示した図面です。例えば「合計3時間以上、日影になる範囲」や「合計5時間以上、日影になる範囲」といった形で、規制時間ごとの日影ライン(等時間日影線)が描かれます。

    • 用途: 日影規制の基準に適合しているかどうかを最終的に判断するために使用される、法的なチェックのための図面です。建築確認申請の際には、この等時間日影図の添付が求められます。

3.【実践】日影図の読み方と作成時の注意点

日影図は専門的な図面ですが、ポイントを押さえれば誰でもその概要を読み解くことができます。ここでは、読み方のコツと、作成する際に特に注意すべき点について解説します。

3.1. 日影図から読み解くべき情報とは?

等時間日影図を見る際は、まず「規制ライン」と「建物が作る日影のライン(等時間日影線)」の2つに着目します。規制ラインとは、法律で「この線より内側には、指定された時間以上の日影を落としてはならない」と定められた線のことです。

具体的には、敷地境界線から5mのラインと10mのラインが基準となります。そして、建物が実際に作る日影のラインが、これらの規制ラインを越えていないかを確認します。例えば、5m超10m以内の範囲では「3時間日影(地域によっては2時間)」のラインが規制ラインの内側にあればセーフ、外側にはみ出ていればアウト、といった具合です。この関係性を読み解くことが、日影図の読解の基本となります。

3.2. 日影図作成の基本的な流れとツール

かつて日影図の作成は、専用の三角定規や太陽軌跡図を用いて手作業で行う、非常に手間のかかる作業でした。しかし現在では、CAD(キャド)ソフトを用いて効率的かつ正確に作成するのが主流です。

基本的な流れは、まずCAD上で配置図、平面図、立面図を基に建物の3Dモデルを作成します。次に、敷地の緯度や真北の情報を設定し、測定面の高さを入力します。これらの条件を設定した上で、日影計算のコマンドを実行すると、時刻日影図や等時間日影図が自動的に作図されます。BIM(ビム)と呼ばれる3Dモデルに多様な情報を統合する手法を用いれば、設計変更にも迅速に追随して日影図を更新でき、より高度なシミュレーションが可能です。

3.3. 図面作成・読解で最も注意すべき3つのポイント

日影図の作成や読解において、間違いやすい、あるいは特に重要となるポイントが3つあります。これらの設定を誤ると、計算結果が全く異なってしまうため、細心の注意が必要です。

  • 真北の正確な設定:

    • 解説: 日影計算の基準となる方角は、地図が示す「真北(しんぽく)」です。しかし、一般的な図面やコンパスが示す「磁北(じほく)」とは、わずかにズレがあります(このズレを偏角と呼びます)。この偏角を正確に補正し、真北を基準に計算しなければ、正しい日影図は作成できません。国土地理院のウェブサイトなどで、建設地の正確な偏角を確認することが重要です。

  • 測定面の高さの正しい理解:

    • 解説: 日影時間を測定する「測定面」の高さ設定は、規制を左右する重要な要素です。前述の通り、この高さは行政によって定められています。この設定を間違えると、日影の長さが大きく変わってしまいます。例えば、測定面を高く設定すればするほど、地面に落ちる影は短くなり、規制上は有利になりますが、定められた高さ以外で計算することは許されません。

  • 敷地と隣地の高低差の扱い:

    • 解説: 敷地やその周辺に高低差がある場合、日影計算はさらに複雑になります。建築基準法では、平均地盤面を算定し、それを基準に高さを計算します。もし隣地が自分の敷地より低い場合、影はより遠くまで伸びることになり、逆の場合は短くなります。この高低差を図面に正確に反映させなければ、現実とはかけ離れた日影規制の検討となってしまうため、敷地の測量図などを用いて正確な地盤面の情報を把握することが不可欠です。

4. 設計・申請実務における日影規制と図面のポイント

最後に、実際の設計業務や建築確認申請といった実務において、日影規制と図面がどのように活用されるのか、より実践的なポイントを見ていきましょう。

4.1. 建築確認申請で求められる日影規制関連の図面

建物を建てる前には、その計画が建築基準法に適合しているか審査を受ける「建築確認申請」が必要です。日影規制の対象となる建築物の場合、この申請時に日影規制をクリアしていることを証明する図面として、「日影図」と「求積図(きゅうせきず)」の添付が求められます。

日影図は、本記事で解説してきた等時間日影図が主となります。求積図は、敷地面積や建築面積、延べ面積などを計算した根拠を示す図面で、建物の規模を確定させるために必要です。これらの図面に不備があると、審査が滞り、着工が遅れる原因となるため、正確な作成が求められます。

4.2. 設計段階での日影シミュレーションの価値

日影規制は、クリアすべき「制約」であると同時に、建物のデザインや配置を決定する上での重要な「指針」にもなり得ます。設計の初期段階から日影図を用いたシミュレーションを積極的に行うことで、規制をクリアしつつ、より付加価値の高い設計が可能になります。

例えば、屋根の形状を工夫したり、建物の配置をわずかにずらしたりするだけで、日影の状況が劇的に改善されることがあります。また、逆に自らの敷地の日当たりを最大限確保するような計画を立てることも可能です。このように、日影シミュレーションは、法規制への適合だけでなく、快適な空間を創造するための強力なデザインツールとしての価値も持っています。

4.3. 天空率制度との関係性と緩和の可能性

日影規制とよく似た概念として「天空率」という制度があります。これは、道路斜線制限や北側斜線制限といった、建物の高さを制限する他の規制に関わるものですが、日影規制の検討においても関係してくる場合があります。

天空率は、特定のポイントから空を見上げた時に、空がどれくらいの割合で見えるか(天空の開放度)を計算するものです。この天空率を用いることで、特定の斜線制限を適用除外にできる場合があります。その結果、建物の形状の自由度が増し、それが間接的に日影規制をクリアしやすい計画に繋がることがあります。複雑な敷地条件など、日影規制のクリアが困難な場合には、天空率の活用も視野に入れることで、解決の糸口が見つかるかもしれません。

5. まとめ

今回は、建築における重要な法規制である「日影規制」と、その確認に不可欠な「図面」について、多角的に解説しました。

  • 日影規制は、周辺の良好な日照環境を守るための重要なルールです。

  • この複雑な規制を客観的に確認・証明するために、専門的な図面、特に「日影図」が不可欠となります。

  • 日影図には「時刻日影図」と「等時間日影図」があり、目的に応じて使い分けられます。

  • 図面の作成・読解では、「真北」「測定面の高さ」「高低差」といったポイントに特に注意が必要です。

  • 日影シミュレーションは、規制への適合だけでなく、より良い設計を生み出すためのデザインツールでもあります。

日影規制と関連する図面の正確な理解は、法規を遵守し、円滑に建築プロジェクトを進める上で必須の知識です。また、それは良好な近隣関係を築き、すべての人が快適に暮らせる街づくりに貢献することにも繋がります。本記事が、その一助となれば幸いです。

つくるAI株式会社 編集部
つくるAI株式会社 編集部
2024年7月、トグルホールディングス株式会社より分社化した「つくるAI株式会社」のメディア編集部。デベロッパー様が土地をもっと買えるようになり、売買仲介様の物件の価値の判断がより正確になるツールを提供しています。

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