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【第一種住居地域の日影規制】北側斜線がない?高さ制限のポイントを解説

戸建て住宅やマンション、そしてスーパーマーケットやホテルまで、多様な建物が共存する「第一種住居地域」。この地域は、住環境の保護を基本としながらも、一定規模の商業施設の立地を認めることで、利便性の高い街並みを形成しています。しかし、その多様性ゆえに、建物の高さや日照に関するルールはより一層重要になります。その中核をなすのが「第一種住居地域 日影規制」です。

「この地域は、北側斜線制限がないって本当?」「日影規制は他の地域とどう違うの?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。この記事では、第一種住居地域における日影規制に焦点を当て、その具体的な内容から、他の高さ制限との関係、そして設計上のポイントまでを徹底的に解説します。この地域ならではの建築の可能性と注意点を理解する一助となれば幸いです。

1. 「第一種住居地域」とは?その特徴と高さ制限の全体像

まずはじめに、第一種住居地域がどのような場所なのか、その基本的な性格と高さに関するルールの全体像を把握しましょう。

1.1. 住居と店舗が共存する多様な街並み

第一種住居地域は、建築基準法で「住居の環境を保護するため定める地域」と定義されています。基本は住宅地ですが、中高層住居専用地域などと比べ、建てられる建物の用途が広いのが特徴です。

具体的には、住宅や共同住宅のほか、幼稚園から大学までの学校施設、病院、図書館などが建築可能です。さらに、延床面積が3,000㎡以下であれば、店舗、事務所、飲食店、ホテルや旅館なども建てることができます。このため、駅周辺などでは、マンションの低層階に店舗が入るような、利便性の高い複合的な街並みが生まれます。

1.2. 建てられる建物の種類と規模(建ぺい率・容積率)

この地域で建てられる建物の規模は、「建ぺい率」と「容積率」によってコントロールされます。

  • 建ぺい率: 敷地面積に対する建築面積の割合で、50%、60%、80%のいずれかが都市計画で定められます。80%が指定されるのは、防火地域内の耐火建築物などに限られます。

  • 容積率: 敷地面積に対する延べ面積の割合で、100%~500%の範囲で指定されます。この容積率をどう消化するかが、建物の階数や形状を考える上での出発点となります。

これらの指定は、土地の価格や活用方法に直結する重要な要素です。

1.3. 高さ制限のポイント:北側斜線制限がないことの意味

第一種住居地域の高さ制限を考える上で、最も重要な特徴が「北側斜線制限が適用されない」ことです。北側斜線制限は、北側隣地の日照を確保するために建物の北側の高さを抑える厳しい規制ですが、この地域にはそれがありません。

これは、第一種住居地域が、純粋な住宅地だけでなく、ある程度の規模の商業施設などの立地も想定しており、街区全体としての土地利用の効率性を高める狙いがあるためです。しかし、だからといって北側の日照を無視してよいわけではありません。その代わりに、より直接的に日照時間をコントロールする「日影規制」が重要な役割を果たすことになるのです。

2. 【本題】第一種住居地域の日影規制を徹底解説

それでは、本題である第一種住居地域における日影規制の具体的な内容を見ていきましょう。このルールを理解することが、この地域での建築計画の核心となります。

2.1. 規制の対象となる建築物:高さ10mのボーダーライン

第一種住居地域において日影規制の対象となるのは、「高さが10mを超える建築物」です。この「高さ10m」という基準は、一般的な木造住宅の2階建てが収まる程度の高さであり、3階建てにしたり、少し高さのある建物を計画したりすると、容易に超えてしまうボーダーラインです。

計画している建物がこの高さを超えるかどうかが、日影規制を検討する最初のステップとなります。高さが10m以下であれば、原則として日影規制の対象外となりますが、だからといって近隣への日照配慮が不要になるわけではない点には注意が必要です。

2.2. 測定面の高さ:A.H.4mが基本ルール

日影の時間を測定する地面からの高さを「測定面(A.H.)」と呼びます。第一種住居地域では、この測定面の高さが原則として「A.H.4m」に指定されます。

この4mという高さは、隣地の建物の2階部分にある窓やバルコニーの日当たりを想定したものです。つまり、「隣の家の2階が、自分の建物によって長時間日陰になってはいけませんよ」というルールだと理解すると分かりやすいでしょう。この測定面が高いか低いかで、地面に落ちる影の許容範囲は大きく変わるため、4mという基準は非常に重要です。

2.3. 規制時間:「4時間/2.5時間」が標準パターンとは

第一種住居地域で高さ10mを超える建物は、冬至の日を基準として、測定面(A.H.4m)に一定時間以上の日影を生じさせてはなりません。その規制時間は、敷地境界線からの距離に応じて2段階で設定されています。

  • 敷地境界線から5mを超え10mまでの範囲: この範囲に落ちる影の合計時間は、4時間までと定められています。(条例により3時間または2.5時間に強化可能)

  • 敷地境界線から10mを超える範囲: この範囲に落ちる影の合計時間は、2.5時間までと定められています。(条例により2時間に強化可能)

この「4時間/2.5時間」という組み合わせが、第一種住居地域における日影規制の標準的なパターンとなります。

2.4. 最終判断は条例で!自治体ごとの違い

これまで説明してきた基準は、建築基準法で定められた基本ルールです。しかし、これらの数値を実際にどのように適用するかは、最終的に各地方公共団体が条例で定めます。

例えば、地域の特性に応じて、規制時間をより厳しい「3時間/2.5時間」に設定している自治体もあれば、測定面の高さを6.5mに緩和している場合もあります。また、日影規制の対象となる区域の指定そのものも条例によります。したがって、計画を進める際には、必ず管轄の役所の建築指導課などで、その地域に適用される条例の内容を正確に確認することが不可欠です。

3. 日影規制と他の高さ制限との関係性

第一種住居地域の建築計画では、日影規制と他の高さ制限をセットで考える必要があります。特に、北側斜線制限がないこととの関係は重要です。

3.1. なぜ北側斜線制限の代わりに日影規制で日照を確保するのか

前述の通り、第一種住居地域には北側斜線制限がありません。北側斜線制限は、建物の「形」を直接制限することで北側の日照を確保する、非常に分かりやすいルールです。

それがない代わりに、この地域では「日影規制」によって、より実質的な日照時間を保証するというアプローチを取っています。これにより、建物の北側を斜めにカットする必要がなくなり、設計の自由度は増します。しかしその一方で、建物全体のボリュームが生み出す「影の時間」をシミュレーションし、規制時間内に収めるという、より高度で複雑な検討が求められることになるのです。

3.2. 隣地斜線制限との兼ね合いで決まる建物の形

北側斜線はありませんが、「隣地斜線制限」は適用されます。これは、隣地境界線の地盤面から20mの高さから、1.25の勾配で引かれる斜線の中に建物を収めるルールです。

これにより、建物の高層化は一定程度抑制されます。特に、敷地境界線に近い部分ではこの規制が大きく影響します。設計者は、この隣地斜線制限で決まる大まかな建物の外枠の中で、さらに日影規制をクリアできるように、建物の配置や形状を微調整していくことになります。この2つの規制が、第一種住居地域の建物の形を決定づける両輪となります。

3.3. 設計プロセスにおける日影シミュレーションの重要性

北側斜線制限がないことで設計の自由度が高まる反面、日影規制の検討はよりシビアになります。建物のちょっとした出っ張りや屋根の形が、計算上の日影時間に大きく影響を与えるからです。

そのため、現代の設計プロセスでは、CADやBIMといったツールを用いた日影シミュレーションが不可欠です。設計の初期段階から、計画している建物の3Dモデルを作成し、それが冬至の日にどのような影を落とすかを何度も検証します。このシミュレーションを繰り返すことで、法規制をクリアしつつ、敷地のポテンシャルを最大限に引き出す設計を探っていくのです。

4. 第一種住居地域で日影規制をクリアする設計のポイント

では、具体的にどのようにして第一種住居地域日影規制をクリアすればよいのでしょうか。いくつかの設計上のポイントを紹介します。

4.1. 建物の配置計画:敷地のポテンシャルを最大限に活かす

敷地に対して建物をどこに配置するかは、日影計画の最も重要な要素です。北側に道路がある敷地(北側接道)では、南側の隣地への日影の影響が大きくなるため、建物を可能な限り北側に寄せて配置するのが基本です。逆に南側接道の敷地では、比較的自由に配置しやすいですが、それでも東西の隣地への配慮は必要です。敷地の形状や方位、周辺環境を総合的に読み解き、最適な配置を見つけることが求められます。

4.2. 建物形状の工夫:日影をコントロールするテクニック

建物の形状を工夫することで、日影の落ち方をコントロールできます。例えば、一つの大きな塊の建物にするのではなく、複数のボリュームに分節化したり、建物の角を丸めたりすることで、影の輪郭を和らげ、特定地点での日影時間を短縮する効果が期待できます。また、単純な箱型ではなく、上階をセットバックさせる、あるいは一部を雁行(ギザギザに)させるなど、意図的に凹凸のあるデザインにすることも、日影規制をクリアするための有効なテクニックです。

4.3. 確認申請と近隣への配慮

設計がまとまり、日影規制をクリアできることが確認できたら、その証明として日影図を作成し、建築確認申請に添付します。この法的な手続きをクリアすることは当然ですが、それと同時に、近隣住民への説明と配慮も忘れてはなりません。特に、これまでにない高さの建物が建つ場合、日影図などの客観的な資料を用いて、日照への影響が法律の範囲内であることを丁寧に説明することが、将来のトラブルを防ぎ、良好な関係を築く上で非常に大切です。

5. まとめ

今回は、多様な建物が共存する「第一種住居地域」における「日影規制」について、その特徴とポイントを詳しく解説しました。

  • 第一種住居地域は、住居と店舗などが共存する利便性の高い地域です。

  • 最大の特徴は「北側斜線制限がない」ことで、その分、日影規制が日照確保の重要な役割を担います。

  • 日影規制は、高さ10m超の建物を対象に、測定面4mで「4時間/2.5時間」の日影時間が標準となります。

  • 隣地斜線制限と日影規制を同時に検討し、シミュレーションを重ねることが、この地域での設計の鍵です。

  • 最終的な規制内容は自治体の条例で定められるため、事前の確認が不可欠です。

第一種住居地域は、北側斜線制限がないことから、設計の自由度が高い魅力的な地域です。しかし、その自由は、より高度で丁寧な日影規制の検討によって支えられています。この規制を正しく理解し、味方につけることで、この地域ならではの、豊かで価値ある建築を実現することができるでしょう。

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