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日影規制のラインとは?測定ラインと規制ラインの違い、高低差の扱いを徹底解説

建築設計において、避けては通れない複雑な法規制の一つが「日影規制」です。その計算や解釈において、実務者を悩ませるのが、複数登場する「ライン」という言葉の存在ではないでしょうか。「測定ライン」「規制ライン」「時刻日影線」など、似たような言葉が飛び交いますが、それぞれの意味と役割を正確に区別できているでしょうか。

この記事では、建築や不動産開発に携わる方々を対象に、日影規制における各種「ライン」の正体とその役割を徹底的に解き明かします。日影を測る基準となるラインから、影が超えてはならない境界線、そして日影図上で規制クリアを判断するための線まで、それぞれの違いと関係性を分かりやすく解説します。特に、実務で判断に迷うことが多い「敷地の高低差」の扱いについても掘り下げます。この記事を読めば、日影規制に関するラインの知識が整理され、より正確でスムーズな建築計画が可能になるはずです。

1. 日影規制の基本と「ライン」の重要性

日影規制における各種ラインを理解する前に、まずはその土台となる基本と、なぜラインの理解が重要なのかを確認しておきましょう。

1.1. 日影規制の目的と仕組みの再確認

日影規制は、建築基準法に定められた集団規定の一つで、周辺の敷地の日照環境を保護することを目的としています。具体的には、中高層の建築物が建つことによって、近隣の土地に長時間の日影が落ちるのを防ぐためのルールです。

規制の仕組みは、一年で最も太陽が低く、影が長くなる「冬至の日」を基準に、午前8時から午後4時(北海道では午前9時から午後3時)の間、敷地境界線の外側にできる建物の影が、一定時間を超えないように高さを制限するというものです。この「一定時間」や規制のかかる範囲は、用途地域や地方公共団体の条例によって細かく定められています。

1.2. 建築計画を左右する「日影規制のライン」とは何か?

日影規制を正しく適用し、建物の計画を進める上で、複数の「ライン」が登場します。これらのラインは、それぞれが全く異なる役割を持っており、これらを混同すると建築計画そのものが成り立たなくなる可能性さえあります。日影規制におけるラインは、大きく以下の3種類に分類できます。

  • 測定ライン: 日影の時間を「どの高さで測定するか」を定める基準のライン。

  • 規制ライン: 建物の影が「どこまで許容されるか」という範囲を示す境界のライン。

  • 日影図上のライン: 実際に建物の影がどのように落ちるか、規制をクリアしているかを示す作図上のライン。

これらの各ラインを一つひとつ正確に理解し、それらの関係性を把握することこそ、日影規制を攻略する上で最も重要な鍵となります。

2. 日影を測定する基準「測定ライン」を理解する

日影計算のすべては、この「測定ライン」から始まります。日影時間を測るための大前提となる、この基準面の考え方を詳しく見ていきましょう。

2.1. 測定ライン(測定水平面)の定義

測定ラインとは、一般に「測定水平面」とも呼ばれ、日影時間を測定する際の「高さの基準となる仮想の水平面」を指します。建物から落ちる影は、地面に落ちる部分だけを測るわけではありません。この測定ライン上に落ちる影の時間を計算することで、日影規制の適否を判断します。

例えば、隣の敷地が駐車場であっても、将来的に住宅が建つ可能性を考慮し、一定の高さにおける日照を確保するために、この仮想の水平面が設定されています。日影計算における全ての高さの基準となる、まさに「物差しを当てるゼロ地点」のような非常に重要なラインです。

2.2. 測定ラインの高さはどう決まる?(用途地域による違い)

測定ラインの高さは、建物の平均地盤面(GL)を基準として、用途地域や建物の階数などに応じて、以下の3種類に定められています。(建築基準法施行令第135条の9)

  • 平均地盤面から1.5mの高さ ・第一種・第二種低層住居専用地域など(ただし軒高7m以下、2階建て以下の建物に限る) ・主に1階部分の日照を確保することを想定した高さです。

  • 平均地盤面から4mの高さ ・第一種・第二種中高層住居専用地域、第一種・第二種住居地域、準住居地域など ・主に建物の2階部分の日照を確保することを想定した高さです。多くの地域でこの高さが適用されます。

  • 平均地盤面から6.5mの高さ ・近隣商業地域、準工業地域など ・主に3階以上の部分の日照を確保することを想定した高さです。

このように、地域の特性に応じて守られるべき日照の高さが異なり、それに合わせて測定ラインの高さも変動します。

2.3. 【重要】敷地に高低差がある場合の測定ラインの考え方

実務で最も注意が必要なのが、建築する敷地と、日影の影響を受ける隣の敷地との間に高低差があるケースです。この場合、測定ラインの高さの算出方法が複雑になります。建築基準法施行令第135条の12第1項第2号では、以下のように定められています。

「日影を生じさせる敷地の平均地盤面が、日影の測定対象となる隣地の地盤面より1m以上低い場合は、その高低差から1mを引いた数値の2分の1だけ高い位置を、隣地の地盤面とみなす。」

これを分かりやすく言い換えると、**「自分の敷地の地盤面(GL1)と隣地の地盤面(GL2)の平均の高さ((GL1+GL2)/2)を基準として測定ラインを考える」**という考え方が基本となります。(※厳密な計算式は異なりますが、概念としてはこの理解が近道です)

例えば、自分の敷地が隣地より2m低い場合、単純に自分の敷地のGLから4mを測定ラインとするのではなく、高低差を考慮した、より高い位置に測定ラインが設定されます。この計算を誤ると、日影計算の結果が全く変わってしまい、計画が根本から覆る危険性があるため、高低差のある土地では最大限の注意が必要です。

3. 影が超えてはならない「規制ライン」とは

測定ラインが「測る基準」であったのに対し、次に見る「規制ライン」は「規制が及ぶ範囲」を示すラインです。このラインを境界として、日影時間の制限が課せられます。

3.1. 規制ラインの定義:5mラインと10mライン

規制ラインとは、敷地境界線から水平距離で5mおよび10m外側の位置に引かれるラインを指します。このライン自体が高さを持っているわけではなく、地図上で敷地境界線から5m、10m離れた位置を示す境界線です。

日影規制では、「敷地境界線から5mを超え10m以内の範囲」と、「敷地境界線から10mを超える範囲」の2つのエリアに分けて、それぞれ異なる日影時間の上限を定めることが可能となっています。このエリア分けを行うための境界線が、5mラインと10mラインです。

3.2. なぜ5mと10mの2種類のラインがあるのか?

規制ラインが2種類設けられているのは、敷地からの距離に応じて、日照への影響度合いが異なると考えられているためです。当然ながら、建物に近い場所ほど、日影による影響は大きくなります。

そこで、地方公共団体は条例によって、敷地に近いエリア(5m超10m以内)には少し長めの日影時間を許容し、遠いエリア(10m超)にはより厳しい(短い)日影時間を設定するなど、きめ細やかな規制を行うことができます。例えば、「10mラインの外側は3時間まで、5mラインと10mラインの間は5時間まで」といった2段階の規制が可能になります。これにより、地域の実情に合わせた合理的な土地利用と住環境の保護の両立を図っています。

3.3. 規制ラインと日影時間の関係性

規制ラインと日影時間は、常にセットで考えなくてはなりません。建築計画地の用途地域や、特定行政庁が定める条例を確認し、どの規制ラインの範囲で、何時間の日影制限が課せられているかを正確に把握する必要があります。

(規制の例)

  • ケースA: 用途地域全体で、10mを超える範囲において日影時間が3時間を超えてはならない。

  • ケースB: 10mを超える範囲では日影時間4時間、5mを超え10m以内の範囲では日影時間6時間を超えてはならない。

このように、規制内容は地域によって様々です。計画を始める前に、必ず該当する地域の条例を確認し、「どの規制ラインの内側・外側で、何時間の規制がかかるのか」という条件を明確にすることが、設計の第一歩となります。

4. 日影図に描かれる「時刻日影線」と「等時間日影線」

最後に、これまでのラインの概念をもとに作成される「日影図」に描かれる2つの重要なラインについて解説します。これらは、実際に規制をクリアしているかを目で見て判断するための線です。

4.1. 建物の影の軌跡を示す「時刻日影線」

時刻日影線とは、冬至の日の各時刻における、建物の影の輪郭を示した線のことです。例えば、午前8時、9時、10時…と1時間ごとに、建物が測定ライン上に落とす影の形をプロットしていきます。

この線を追っていくことで、時間と共に太陽が動くにつれて、建物の影がどのように移動し、どの範囲に影響を与えるのかを視覚的に把握することができます。影の先端が描く軌跡は、その建物の形状や高さによってユニークな曲線を描きます。複数の時刻日影線が密集している場所は、それだけ長時間にわたって影になる可能性があることを示唆しています。

4.2. 規制をクリアしているか判断する「等時間日影線」

等時間日影線は、日影規制の適否を最終的に判断するための、最も重要なラインです。これは、測定ライン上で日影になる時間が等しい点を結んで描かれる線です。

例えば、ある地点が午前9時から12時まで影になっていた場合、その地点の日影時間は「3時間」です。このように、日影時間が合計3時間となる全ての点を滑らかに結んだものが「3時間等時間日影線」となります。同様に「5時間等時間日影線」なども描かれます。この等時間日影線が、前述の「規制ライン(5m/10mライン)」の内側にすべて収まっていれば、その建物は日影規制をクリアしていると判断されます。逆に、等時間日影線が規制ラインを越えてしまう場合は、計画の見直しが必要となります。

4.3. 日影図におけるラインの読解ポイント

複雑に見える日影図も、これら各種ラインの役割を理解すれば、正しく読み解くことができます。日影図を確認する際の基本的な手順は以下の通りです。

  • ① 測定ラインの高さ設定を確認する: まず、計算の前提となる測定ラインの高さ(1.5m, 4m, 6.5m)が、敷地の用途地域や高低差を考慮して正しく設定されているかを確認します。

  • ② 規制ラインの位置を把握する: 敷地境界線から5m、10mの位置に引かれた規制ラインがどこにあるかを確認します。

  • ③ 等時間日影線を追う: 条例で定められた規制時間(例:3時間、5時間)の等時間日影線が、②の規制ラインを越えていないかをチェックします。

  • ④ 最終判断: すべての等時間日影線が、対応する規制ラインの内側に収まっていれば「適合」、一つでも越えていれば「不適合」となります。

この手順で確認することで、日影規制に関する法的な適合性を明確に判断することができます。

5.まとめ

「日影規制のライン」と一言で言っても、そこには複数の異なる役割を持つラインが存在します。本記事で解説した内容を整理すると以下のようになります。

  • 測定ライン: 日影を測る「高さの基準」。地盤面の高低差がある場合は特に注意が必要。

  • 規制ライン: 規制が及ぶ「範囲の境界」。敷地境界線からの距離(5m/10m)で示される。

  • 日影図上のライン: 規制をクリアしているかを「作図で判断」するための線(時刻日影線、等時間日影線)。

これらのラインは、それぞれが独立しているのではなく、「測定ラインを基準に描かれた等時間日影線が、規制ラインを越えないこと」という形で、すべてが連動して日影規制を構成しています。

特に、敷地に高低差がある場合の測定ラインの算出は、専門的な知識が不可欠であり、ここでのミスは計画全体を頓挫させかねません。日影規制という複雑なパズルを解き明かすためには、各種ラインの定義と関係性を正確に理解し、信頼できる専門家と共に慎重に計画を進めることが、成功への最も確実な道筋と言えるでしょう。

つくるAI株式会社 編集部
つくるAI株式会社 編集部
2024年7月、トグルホールディングス株式会社より分社化した「つくるAI株式会社」のメディア編集部。デベロッパー様が土地をもっと買えるようになり、売買仲介様の物件の価値の判断がより正確になるツールを提供しています。

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