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日影規制の対象区域とは?用途地域別の規制一覧と調べ方を徹底解説

土地の購入やマイホームの建築、不動産開発などを検討する際、必ず確認しなければならない法規制の一つに「日影規制」があります。この規制は、建物の高さや形状に大きな影響を与えるため、その土地にどのような規制がかかっているのかを事前に把握することが極めて重要です。「私の土地は日影規制の対象区域なのだろうか?」「対象だとしたら、どのくらい厳しい規制なのだろう?」こうした疑問は、土地に関わるすべての方が抱くものではないでしょうか。

実は、日影規制は日本のどこでも同じように適用されるわけではなく、場所、つまり「区域」によって規制の有無や内容が大きく異なります。本記事では、この「日影規制の区域」に焦点を当て、その全体像を徹底的に解説します。どのような場所が対象区域となるのかを用途地域の一覧で分かりやすく示し、区域ごとの規制内容の違い、そしてご自身の土地の規制を調べる具体的な方法まで、順を追ってご紹介します。この記事を最後まで読めば、複雑な日影規制の区域に関する知識が整理され、自信を持って土地の評価や建築計画を進めることができるようになるはずです。

1. 日影規制と「区域」の基本的な関係

日影規制の区域について理解を深めるために、まずは規制と区域がどのような関係にあるのか、その基本構造から見ていきましょう。

1.1. 日影規制は全国一律ではない

まず押さえておくべき最も重要なポイントは、日影規制は日本国で一律に適用されるルールではないということです。ある場所では厳しい規制が課されている一方で、すぐ隣の土地では全く規制がない、ということも珍しくありません。

この規制の有無や強弱は、その土地がどのような目的で利用されるべき場所として都市計画で定められているか、つまり「区域」によって決まります。したがって、日影規制を考える際には、常に「この土地はどの区域に属しているのか?」という視点が不可欠になります。

1.2. 規制の根拠となる建築基準法と地方公共団体の条例

日影規制の区域がどのように決まるのかを理解するには、法律と条例の二段階構造を知る必要があります。

  • 第1段階:建築基準法による大枠の設定 まず、国の法律である建築基準法(第56条の2)で、日影規制を「かけることができる」区域の候補が定められています。これはあくまで「候補地」のリストであり、この法律が直接、特定の土地に規制をかけているわけではありません。

  • 第2段階:地方公共団体の条例による最終決定 次に、建築基準法で示された候補地の中から、実際にどの区域に日影規制を適用するか、また、その具体的な規制内容(許容される日影時間など)を最終的に決定するのは、その地域を管轄する都道府県や市区町村が定める「条例」(建築基準条例など)です。

つまり、「法律で定められた選択肢の中から、各自治体が地域の実情に合わせてルールをカスタマイズしている」とイメージすると分かりやすいでしょう。

1.3. なぜ区域によって規制の有無が変わるのか?

では、なぜ区域によって規制をかけたり、かけなかったりするのでしょうか。その理由は、日影規制の根源的な目的である「良好な住環境の保護」にあります。

都市計画では、土地の利用目的を「用途地域」として分類し、住宅地、商業地、工業地などを分けて、効率的で暮らしやすい街づくりを目指しています(ゾーニング)。この考え方に基づき、住宅が密集し、日照の確保が特に重要な区域(住居系の用途地域)では手厚く日影規制を適用し、一方で、商業の活性化や工場の利便性を優先すべき区域(商業系・工業系の用途地域)では、規制を適用しない、あるいは緩和するという判断がなされるのです。

2. 【一覧】日影規制の対象となる区域(用途地域)

それでは、具体的にどのような用途地域が日影規制の対象区域となるのでしょうか。原則として「対象となる区域」と「対象とならない区域」に分けて見ていきましょう。

2.1. 原則として日影規制の対象となる住居系地域

以下の「住居」という名称がつく用途地域は、住環境の保護が重視されるため、ほとんどの場合、地方公共団体の条例によって日影規制の対象区域として指定されます。

  • 第一種低層住居専用地域

  • 第二種低層住居専用地域

  • 第一種中高層住居専用地域

  • 第二種中高層住居専用地域

  • 第一種住居地域

  • 第二種住居地域

  • 準住居地域

また、上記の用途地域に加えて、近隣商業地域準工業地域用途地域の指定のない区域も、建築基準法上は日影規制の対象となり得ます。これらの地域に実際に規制をかけるかどうかは、各自治体の条例の判断に委ねられています。

2.2. 原則として日影規制の対象とならない商業・工業系地域

一方で、以下の用途地域は、原則として日影規制の対象区域となりません。これらの地域では、建物の高さ制限を緩和し、土地の高度利用を促進することが優先されるためです。

  • 商業地域: デパートやオフィスビルなどが集積する、いわゆる繁華街です。経済活動の利便性が最優先され、日影規制は適用されません。

  • 工業地域: 工場の利便性を図る地域で、規模の大きな工場も建設可能です。住環境よりも工業生産が優先されるため、日影規制の対象外です。

  • 工業専用地域: 大規模な工場やコンビナート専用の地域です。住宅の建設が禁止されており、住環境を保護する必要がないため、日影規制はありません。

2.3. 用途地域の指定がない「非線引き区域」等の扱い

都市計画区域には、市街化を促進する「市街化区域」と抑制する「市街化調整区域」がありますが、この区分がない「非線引き都市計画区域」や、そもそも都市計画区域ではない「都市計画区域外」の土地も存在します。

これらの区域では、原則として日影規制は適用されません。しかし、地方公共団体が条例によって、特定の区域(例えば、既存の集落など)を個別に日影規制の対象区域として指定することが可能です。そのため、「用途地域の指定がないから規制もない」と安易に判断するのは禁物です。

3. 区域によって異なる日影規制の具体的な内容

日影規制は、対象区域になるかどうかだけでなく、どの区域に属するかによって、その規制内容も細かく変化します。ここでは、主な違いを3点ご紹介します。

3.1. 規制対象となる建物の高さの違い

日影規制は、ある一定の高さを超える建物にのみ適用されます。この「高さのトリガー」も、用途地域によって異なります。

  • 軒高7m超 または 階数3以上: 第一種・第二種低層住居専用地域など。

  • 高さ10m超: 第一種・第二種中高層住居専用地域、第一種・第二種住居地域、準住居地域など。

これは、低層住宅が中心の地域では比較的低い建物から規制を始め、中高層の建物が混在する地域では、より高い建物から規制を始めるという、地域の建物像に合わせた設定になっています。

3.2. 許容される日影時間(規制時間)の違い

隣地に落としても良いと許容される日影の時間(規制時間)も、区域ごとに条例で定められます。一般的に、住環境保護の要請が強い区域ほど、規制時間は短く(厳しく)なります。

例えば、第一種中高層住居専用地域では「10mラインの外側で3時間、5m〜10mラインの間で5時間」という規制が、近隣商業地域では「10mラインの外側で4時間、5m〜10mラインの間で6時間」というように、より緩やかな規制が設定される傾向があります。

3.3. 測定面の高さの違い

日影時間を測定する基準となる地面からの高さ(測定水平面の高さ)も、区域によって異なります。

  • 1.5m: 低層住居専用地域など(主に1階の日照を想定)

  • 4.0m: 中高層住居専用地域、住居地域など(主に2階の日照を想定)

  • 6.5m: 近隣商業地域、準工業地域など(主に3階以上の日照を想定)

このように、どの高さの日照を守るべきかという考え方も、区域の特性に応じて変わってきます。

4. 自分の土地の日影規制区域を調べる具体的な方法

最後に、ご自身が所有または検討している土地が、どの規制区域に該当し、どのような内容の規制を受けるのかを調べるための具体的なステップをご紹介します。

4.1. ステップ1:用途地域を特定する

全ての調査は、その土地の「用途地域」を特定することから始まります。用途地域は、以下の方法で確認できます。

  • 市区町村の窓口で確認: 最も確実なのは、役所の都市計画担当課(都市計画課、建築指導課など)の窓口で「都市計画図」を閲覧し、直接説明を受ける方法です。

  • 自治体のウェブサイトで確認: 近年では、多くの自治体がウェブサイト上で都市計画情報を提供しています。「〇〇市 用途地域」などと検索し、地図上で確認できる「都市計画情報システム」などを利用するのが便利です。

4.2. ステップ2:地方公共団体の条例を確認する

土地の用途地域が判明したら、次はその自治体の「建築基準条例」や関連する規則を確認します。条例には、日影規制に関する条文があり、そこに具体的な対象区域や規制時間、測定面の高さなどが詳細に記載されています。

条例は、自治体のウェブサイトに掲載されている「例規集」から検索・閲覧することができます。条文の解釈が難しい場合もあるため、不明な点は役所の担当課に問い合わせるのが良いでしょう。

4.3. 専門家(建築士・不動産会社)への相談

用途地域や条例の調査は、専門的な知識を要し、解釈を誤ると建築計画に致命的な影響を及ぼす可能性があります。そのため、最も安全で確実な方法は、専門家に調査を依頼することです。

建築を計画している場合は設計を依頼する建築士に、土地の売買を検討している場合は仲介する不動産会社に、それぞれ調査を依頼しましょう。専門家は、法規制を正確に読み解き、重要事項説明書などで明確な情報を提供してくれます。

まとめ

「日影規制の区域」について、その基本構造から具体的な調べ方まで解説しました。今回の記事のポイントを改めて整理します。

  • 日影規制は全国一律ではなく、場所(区域)によって規制の有無や内容が異なる

  • どの区域が対象となるかは、建築基準法を基に、最終的には各地方公共団体の条例で決定される。

  • 原則として住居系の用途地域は対象区域となり、商業系・工業系の用途地域は対象外となる。

  • 自分の土地の規制を知るには、①用途地域を特定し、②自治体の条例を確認するというステップが不可欠。

「日影規制の区域」を正しく理解することは、その土地のポテンシャルやリスクを正確に評価し、後々のトラブルを避けるための第一歩です。ご自身での調査も重要ですが、最終的には建築士や不動産会社といった専門家の力を借りて、確実な情報を基に大切な建築計画や不動産取引を進めていくことを強くお勧めします。

つくるAI株式会社 編集部
つくるAI株式会社 編集部
2024年7月、トグルホールディングス株式会社より分社化した「つくるAI株式会社」のメディア編集部。デベロッパー様が土地をもっと買えるようになり、売買仲介様の物件の価値の判断がより正確になるツールを提供しています。

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