
日影規制の「種別」とは?(一)~(三)の違いと調べ方を専門家が徹底解説
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建築基準法を読み解き、日影規制の条文にあたったとき、「(一)」「(二)」「(三)」という漢数字の記号を目にしたことはないでしょうか。これは日影規制の「種別」と呼ばれるもので、その土地に適用される規制の具体的な内容を決定づける非常に重要な要素です。
しかし、法令の条文は難解で、「この記号が一体何を意味するのか」「自分の計画地はどの種別なのか」が分からず、困惑してしまう方も少なくありません。
この「種別」の理解を抜きにして、正確な日影計算や建築計画は成り立ちません。用途地域だけでなく、この種別を正しく把握して初めて、その土地に建てられる建物のボリュームが見えてくるのです。
そこでこの記事では、専門家でも混同しがちな日影規制の「種別」に焦点を当て、その定義から各種別の具体的な違い、そして実務で最も重要な「調べ方」まで、順を追って徹底的に解説します。
1.日影規制のキホン:法令における「種別」とは何か?
まず、日影規制の条文を読み解く上での基礎知識となる「種別」の概念そのものについて理解を深めましょう。これが分かれば、なぜ自分の街と隣の街で規制内容が違うのか、その理由が見えてきます。
1.1. 建築基準法・別表第4に登場する(一)、(二)、(三)の正体
日影規制の具体的な内容は、建築基準法施行令第135条の9および、同法の「別表第4」に定められています。この別表第4を見ると、用途地域ごとに、規制を受ける建物の高さや測定面の高さ、そして日影時間の組み合わせが複数パターン示されています。
このパターンのことを、それぞれ「(一)号」「(二)号」「(三)号」などと呼び、これらが一般に「日影規制の種別」として知られているものです。簡単に言えば、国が「地域の特性に応じて、この3つの選択肢(種別)の中から規制内容を選んでください」というメニューを用意している、とイメージすると分かりやすいでしょう。
1.2. なぜ「種別」という段階的な規制が必要なのか?
では、なぜ国は一つの基準に統一せず、わざわざ複数の「種別」を設けているのでしょうか。それは、日本全国、都市の状況は一様ではないからです。例えば、都心部の高度利用を図るべきエリアと、郊外の良好な住環境を守るべきエリアとでは、日照に対する要請も異なります。
もし全国一律の厳しい規制をかければ、都市開発が停滞してしまいますし、逆に一律に緩い規制では、住宅地の住環境が損なわれてしまいます。そこで、地域の実情に合わせて規制の厳しさを選択できるよう、段階的な規制の選択肢として「種別」という概念が設けられているのです。
1.3. 「種別」を最終的に決定する特定行政庁の役割
国が用意した(一)~(三)のメニューの中から、実際に「自分の街のこの用途地域には、この種別を適用する」と決定するのは、都道府県や市といった「特定行政庁」の役割です。特定行政庁は、その地域の都市計画や日照の状況などを考慮し、地方のルールである「条例(建築基準条例など)」によって、用途地域ごとに適用する日影規制の種別を定めます。
したがって、私たちがある土地の日影規制を調べる際には、国の法律(建築基準法)だけでなく、その土地を管轄する特定行政庁が定めた条例を読み解く作業が不可欠となるのです。
2.【3つの種別】を徹底比較!規制時間はどう変わる?
特定行政庁が条例で指定する「日影規制の種別」。ここでは、(一)~(三)の各種別が、具体的にどのような規制内容なのかを比較しながら見ていきましょう。一般的に、(一)が最も厳しく、(三)が最も緩やかな規制となります。
2.1. (一)最も日照が保護される第一種の規制内容
第一種((一)号)は、3つの種別の中で最も日影の規制が厳しい内容です。主に、第一種・第二種低層住居専用地域など、特に良好な住環境の保護が求められるエリアでの適用が想定されています。
この種別が指定された地域では、日影時間が短く制限されるため、建物の高さや形状は大きな制約を受けます。わずかな設計の違いが規制に抵触する可能性もあるため、計画の初期段階から精密な日影シミュレーションが求められる、非常にデリケートな規制と言えるでしょう。
2.2. (二)標準的なバランス型の第二種の規制内容
第二種((二)号)は、第一種と第三種の中間に位置する、標準的な規制内容です。第一種・第二種中高層住居専用地域や第一種・第二種住居地域など、幅広い住居系の地域で採用されることが多い種別です。
住環境の保護と、土地の効率的な利用とのバランスを取ることを目的としています。多くの都市でこの第二種の規制が標準的に用いられており、建築計画においても最も目にする機会の多い日影規制の種別と言えるかもしれません。
2.3. (三)最も規制が緩やかな第三種の規制内容
第三種((三)号)は、3つの選択肢の中で最も規制が緩やかな内容です。準住居地域や準工業地域、近隣商業地域など、住宅と商業・工業施設が混在し、ある程度の都市機能の集積が求められるエリアでの適用が想定されます。日影の許容時間が長めに設定されているため、比較的自由度の高い建築計画が可能となります。
ただし、「緩やか」とは言っても規制が存在しないわけではなく、定められた基準を遵守する必要があることに変わりはありません。
3.【実務編】計画地の「日影規制の種別」を正確に調べる方法
ここまで「種別」の概念や内容について解説してきましたが、ここからは最も重要な実務、「自分の計画地に適用される種別をどうやって調べるか」について、具体的なステップで解説します。
3.1. STEP1:大前提となる「用途地域」を特定する
すべての始まりは、計画地の「用途地域」を正確に把握することです。用途地域が分からなければ、適用される規制のテーブルそのものが分かりません。用途地域は、各市区町村の都市計画課などで閲覧できる「都市計画図」で確認できます。最近では、多くの自治体がウェブサイト上で都市計画図を公開しているため、インターネットで手軽に調べることも可能です。「〇〇市 都市計画図」といったキーワードで検索してみましょう。
3.2. STEP2:特定行政庁(市区町村)の建築関連条例を確認する
用途地域が判明したら、次はその土地を管轄する特定行政庁(都道府県や市区町村)が定めている建築関連の条例を確認します。「建築基準条例」や「建築基準法施行条例」といった名称の条例の中に、日影規制に関する条文があります。この条例も、自治体のウェブサイトの「例規集」や「条例・規則」といったページで検索・閲覧することができます。ここで、STEP1で調べた用途地域に対して、どの「日影規制の種別」が指定されているかを探します。
3.3. 条例のどこを見れば「種別」が分かるのか?記載例を紹介
条例の条文は専門的で読みにくいものですが、ポイントを押さえれば大丈夫です。「日影による中高層の建築物の高さの制限」といったタイトルの条文を探しましょう。その中に、例えば「法別表第4(に)項の表(一)の項に掲げる時間」といった記述があります。この「(一)の項に掲げる時間」という部分が、第一種を適用するという意味になります。このように、法別表第4のどの号(項)を適用するかが明記されている箇所を探すのが、種別を特定する鍵となります。
3.4. 条例に指定がない場合の原則的な考え方
万が一、条例の中に特定の用途地域に対する日影規制の種別の指定が見当たらない場合、どう考えればよいのでしょうか。建築基準法では、地方公共団体が条例で規制内容を定めない場合、原則として法別表第4の「(二)号」、つまり「第二種」の規制が適用されることになっています。ただし、これはあくまで最終的な手段であり、条例の読み落としや解釈違いの可能性も考えられます。不明な場合は、必ず所管の特定行政庁の建築指導課などに直接問い合わせて確認することが最も確実です。
4.まとめ
今回は、日影規制の中でも特に専門的で分かりにくい「種別」について掘り下げて解説しました。
日影規制を正確に理解するためには、「用途地域」を確認するだけでは不十分です。その用途地域に対して、特定行政庁が条例でどの「種別」((一)~(三)のどの規制パターン)を指定しているかを確認する作業が不可欠となります。
(一)第一種: 最も厳しい規制。良好な住環境を守る地域。
(二)第二種: 標準的な規制。多くの住居系地域で採用。
(三)第三種: 最も緩やかな規制。利便性の高い地域。
この「用途地域」と「種別」の2つをセットで確認することで、初めてその土地に適用される正確な日影規制の内容が確定します。建築計画の際には、ウェブサイトで条例を調べるだけでなく、必ず最新の情報を特定行政庁の担当窓口で確認し、専門家である建築士と密に連携しながら進めるようにしましょう。