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日影規制は工業地域に適用される?原則と例外、計画時の注意点を解説


目次[非表示]

  1. 1.日影規制の基本と対象区域
    1. 1.1. 日影規制とは?その目的を再確認
    2. 1.2. 建築基準法における対象区域の原則
  2. 2.工業地域における日影規制の原則「対象外」
    1. 2.1. なぜ工業地域は原則対象外なのか?
    2. 2.2. 「工業地域」と「工業専用地域」の違い
    3. 2.3. 「準工業地域」は原則「対象」である点に注意
  3. 3.工業地域でも日影規制が適用される「例外」ケース
    1. 3.1. 地方公共団体の条例による指定(上乗せ・横出し)
    2. 3.2. 工業地域内に存在する住居への配慮
    3. 3.3. 隣接する住居系地域への影響と注意点
  4. 4.工業地域で建築計画を進める際のポイント
    1. 4.1. 必ず地方公共団体の条例を確認する
    2. 4.2. 日影規制対象外でも考慮すべき周辺環境
    3. 4.3. 専門家への相談と日影シミュレーション
  5. 5.まとめ

建物を建てる際に考慮すべき様々な法規制の中でも、周辺の日照環境に関わる「日影規制」は特に重要です。住居系の地域では厳しい規制が課されることが多いですが、「工業地域」についてはどうでしょうか?

「工場や倉庫を建てるのだから、日影規制は関係ないのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、本当にそうなのでしょうか。この記事では、「日影規制 工業地域」というキーワードに注目し、工業地域における日影規制の基本的な考え方、原則として対象外とされる理由、そして注意すべき例外ケースや計画時のポイントについて、建築・不動産関係者の皆様に向けて分かりやすく解説していきます。

1.日影規制の基本と対象区域


まず、工業地域における日影規制を理解するために、日影規制の基本的な目的と、建築基準法でどのように対象区域が定められているかをおさらいしましょう。


1.1. 日影規制とは?その目的を再確認


日影規制(にちえいきせい・ひかげきせい)は、建築基準法第56条の2に基づき、建物の高さや配置を制限することで、周辺の敷地に必要な日照時間を確保し、良好な都市環境を維持することを目的としています。特に、冬至の日(一年で最も太陽が低く、日影が長くなる日)を基準に、一定時間以上、隣地などに日影が落ちないように配慮することが求められます。


日当たりは、人々の健康や快適な生活、さらにはエネルギー効率にも関わる重要な要素です。建物が密集・高層化する中で、互いの日照権を守り、共存するためのルールとして日影規制は存在します。


1.2. 建築基準法における対象区域の原則


日影規制は、日本のすべての土地に一律に適用されるわけではありません。建築基準法では、地方公共団体が都市計画区域または準都市計画区域内において、条例で指定した区域についてのみ適用されると定めています。


そして、その対象となりうる区域として、以下の用途地域などが挙げられています。

  • 住居系地域:第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域、第一種・第二種住居地域、準住居地域
  • 商業系地域:近隣商業地域
  • 工業系地域:準工業地域
  • 用途地域の指定のない区域


ここで注目すべきは、「工業地域」と「工業専用地域」が、このリストに含まれていないという点です。これが、工業地域における日影規制を考える上での出発点となります。


2.工業地域における日影規制の原則「対象外」


建築基準法の定めに基づき、工業地域と工業専用地域は、原則として日影規制の対象外とされています。なぜなのでしょうか。


2.1. なぜ工業地域は原則対象外なのか?


工業地域や工業専用地域が日影規制の対象外とされる主な理由は、これらの地域の主たる目的が、工業の利便性を増進することにあるためです。工場や倉庫などは、その機能上、大規模で高さのある建物が必要となる場合があります。もしこれらの地域に厳しい日影規制を課すと、生産活動や物流に必要な施設の建設が困難になり、工業地域としての役割を果たせなくなる可能性があります。

また、これらの地域は、主に工場や事業所が立地することを想定しており、住居系の地域ほど日照確保の必要性が高くないと考えられています。そのため、建築基準法では、日照よりも工業活動の自由度を優先し、原則として日影規制の対象から外しているのです。


2.2. 「工業地域」と「工業専用地域」の違い


ここで、工業系の用途地域について整理しておきましょう。

  • 工業地域:主として工業の利便を図る地域です。どんな種類の工場でも建てられますが、危険性が高い工場や環境を著しく悪化させる恐れのある工場は制限されます。また、住宅や店舗、学校、病院なども建設可能です(ただし、ホテルや映画館などは不可)。
  • 工業専用地域:工業のための地域です。どんな工場でも建てられますが、住宅、店舗、学校、病院、ホテルなどは建設できません。まさに工業に特化したエリアです。


このどちらの地域も、建築基準法上は日影規制の原則対象外となります。


2.3. 「準工業地域」は原則「対象」である点に注意


工業系の用途地域の中で、「準工業地域」は日影規制の「対象となりうる区域」に含まれている点に、特に注意が必要です。準工業地域は、主として環境悪化の恐れのない工業の利便を図る地域ですが、住宅や店舗なども混在することが想定されています。


そのため、準工業地域では、工業の利便性と住環境の保護のバランスを取る観点から、地方公共団体が条例で日影規制の対象として指定することが可能です。実際に多くの自治体で、準工業地域は日影規制の対象とされています。したがって、「工業」という名前が付いていても、準工業地域の場合は日影規制がかかる可能性が高いと認識しておく必要があります。


3.工業地域でも日影規制が適用される「例外」ケース


工業地域は原則として日影規制の対象外ですが、それで話が終わるわけではありません。いくつかの「例外」ケースや、注意すべき点が存在します。


3.1. 地方公共団体の条例による指定(上乗せ・横出し)


建築基準法では工業地域を原則対象外としていますが、地方公共団体が独自の判断で、条例によって工業地域を日影規制の対象区域に指定することが可能です。これを「横出し条例」と呼ぶことがあります(法で定められた規制を厳しくするのは「上乗せ条例」)。


地域の実情に応じて、工業地域内であっても、周辺の住環境への配慮が必要と判断された場合や、特定のエリアで環境保全を図りたい場合などに、条例で日影規制が適用されることがあります。例えば、工業地域と住居地域が隣接しているエリアや、近年、工場跡地にマンションなどが建設されているようなエリアでは、条例による規制が導入される可能性があります。そのため、「工業地域だから大丈夫」と安易に判断せず、必ず計画地の地方公共団体の条例を確認することが不可欠です。


3.2. 工業地域内に存在する住居への配慮


工業地域は、工業専用地域とは異なり、住宅の建設も可能です。そのため、工業地域内には、工場や倉庫と住宅が混在しているケースも少なくありません。


たとえ条例で日影規制が適用されていなかったとしても、新たに建設する工場などが、近隣の住宅の日照を著しく阻害するような計画は、近隣トラブルの原因となり得ます。法的な規制がないからといって、周辺環境への配慮を全く行わないのは望ましくありません。事業活動を円滑に進めるためにも、可能な範囲で日照への配慮を検討することが推奨されます。


3.3. 隣接する住居系地域への影響と注意点


工業地域に建物を建てる際、最も注意が必要なのは、隣接する土地が住居系の用途地域(特に日影規制が適用されている地域)である場合です。


自分の敷地は工業地域(日影規制対象外)であっても、建設する建物が隣の住居系地域の敷地に日影を落とす場合、その隣地側では日影規制が適用されています。つまり、自分の敷地から落とす日影によって、隣地が受けるべき日照が、その隣地で定められている日影規制の基準を満たせなくなるような事態は避けなければなりません。


この場合、厳密には「自分の建物」が直接日影規制の対象となるわけではありませんが、隣地の日照権を侵害しないように、事実上、日影を考慮した計画が求められることになります。場合によっては、特定行政庁から指導が入ったり、近隣住民との間で紛争に発展したりするリスクがあります。特に、敷地境界線付近での計画には十分な注意が必要です。


4.工業地域で建築計画を進める際のポイント

工業地域において建築計画を立てる際には、日影規制に関して以下の点を押さえておくことが重要です。


4.1. 必ず地方公共団体の条例を確認する


繰り返しになりますが、これが最も重要なポイントです。建築基準法上の原則だけでなく、計画地の地方公共団体(都道府県や市町村)が定める建築条例や都市計画の詳細を必ず確認してください。

  • 日影規制の対象区域指定: 工業地域が条例によって対象区域に含まれていないか。
  • 条例による独自の規制: もし対象となっている場合、どのような規制時間や測定水平面が定められているか。
  • 運用や解釈: 特定行政庁(建築指導課など)に直接問い合わせ、具体的な運用や解釈について確認することも有効です。

この確認を怠ると、計画の根本的な見直しが必要になる可能性があります。


4.2. 日影規制対象外でも考慮すべき周辺環境


たとえ法的な日影規制が適用されない場合でも、周辺環境への配慮は重要です。


近隣住宅への影響: 周辺に住宅がある場合は、日影シミュレーションを行い、どの程度の影響があるかを把握し、可能な配慮を検討します。
近隣住民への説明: 大規模な建築計画の場合は、事前に近隣住民への説明会などを開催し、理解を得る努力をすることも、トラブル防止に繋がります。
将来的な変化: 現在は周辺に住宅がなくても、将来的に開発される可能性も考慮に入れると、より長期的な視点での計画が可能になります。


法規制を守ることはもちろんですが、良好な地域関係を築く視点も忘れないようにしましょう。


4.3. 専門家への相談と日影シミュレーション


工業地域における日影規制の判断は、条例の確認や隣地への影響評価など、専門的な知識が必要です。特に、条例による指定がある場合や、隣地が住居系地域である場合は、日影計算や日影図の作成が不可欠となります。


計画の初期段階から建築士などの専門家に相談し、法規のチェックや日影シミュレーションを依頼することをお勧めします。専門家は、法的な問題をクリアするだけでなく、周辺環境に配慮した最適な建築計画を立案する手助けをしてくれます。

5.まとめ


「日影規制 工業地域」というテーマについて解説しました。原則として、工業地域と工業専用地域は建築基準法上の日影規制の対象外です。これは、工業活動の利便性を優先するためです。しかし、準工業地域は対象となる可能性が高く、また、工業地域であっても地方公共団体の条例によって例外的に規制対象となる場合があります。


したがって、工業地域での建築計画においては、「対象外」という原則に安住せず、必ず条例を確認することが鉄則です。さらに、法的な規制の有無にかかわらず、隣接する住居系地域や近隣住宅への日照に配慮することは、トラブルを未然に防ぎ、円滑な事業活動を行う上で非常に重要です。専門家と連携し、法規と周辺環境の両面から適切な計画を進めましょう。

つくるAI株式会社 編集部
つくるAI株式会社 編集部
2024年7月、トグルホールディングス株式会社より分社化した「つくるAI株式会社」のメディア編集部。デベロッパー様が土地をもっと買えるようになり、売買仲介様の物件の価値の判断がより正確になるツールを提供しています。

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