catch-img

日影規制の「発散方式」とは?計算方法、閉鎖方式との違い、作図まで解説


目次[非表示]

  1. 1.日影規制の計算と「発散方式」の基礎
    1. 1.1. なぜ日影計算が必要なのか?
    2. 1.2. 発散方式(日影時間積算方式)の基本的な考え方
    3. 1.3. 発散方式が用いられる背景と目的
  2. 2.発散方式による日影計算の具体的な作図方法と手順
    1. 2.1. 準備:必要な図面と情報(平面図、立面図、太陽軌跡図、測定面の高さなど)
    2. 2.2. 手順1:日影を落とす建物の頂部特定と日影線の作図
    3. 2.3. 手順2:測定面上の各点における日影時間の積算
    4. 2.4. 手順3:等時間日影線の描画と日影図の完成
  3. 3.発散方式の特徴:メリット・デメリットと他方式との比較
    1. 3.1. 発散方式の主なメリット
    2. 3.2. 発散方式のデメリットと実務上の注意点
    3. 3.3. 「閉鎖方式」との違いは?
    4. 3.4. CADソフトにおける発散方式の扱われ方
  4. 4.日影規制と発散方式に関するQ&Aと補足事項
    1. 4.1. 東京都や横浜市など自治体による発散方式の扱いに違いはある?
    2. 4.2. 日影規制 発散方式と裁判の関連は?
    3. 4.3. 発散方式を理解する上での専門家への相談
  5. 5.まとめ

建築設計において、日影規制への適合は避けて通れない重要なプロセスです。建物が周辺の日照環境に与える影響を正確に把握し、法規制をクリアするためには、適切な日影計算が不可欠となります。日影計算にはいくつかの手法が存在しますが、その中でも「発散方式」は、等時間日影図を作成するための基本的な考え方として、建築関係者には馴染み深いものでしょう。

しかし、その具体的な計算方法や、「閉鎖方式」との違い、さらには作図方法について、正確に理解している方は意外と少ないかもしれません。この記事では、「日影規制 発散方式」というキーワードに焦点を当て、その基礎知識から具体的な手順、メリット・デメリット、関連する疑問点まで、建築・不動産関係者の皆様に向けて分かりやすく解説していきます。

1.日影規制の計算と「発散方式」の基礎


まず、日影規制の計算において「発散方式」がどのような位置づけにあるのか、基本的な知識から確認していきましょう。


1.1. なぜ日影計算が必要なのか?


日影規制は、建築基準法に基づき、建物が冬至の日において一定時間以上、周辺の敷地に日影を落とさないようにするための規制です。この規制を遵守しているかを確認するためには、計画中の建物が実際にどの程度の時間、どの範囲に日影を落とすのかを計算し、図面化(日影図の作成)する必要があります。


この日影計算を怠ったり、誤った方法で行ったりすると、建築確認申請が通らないばかりか、最悪の場合、完成後に是正勧告を受けるといった事態にもなりかねません。そのため、正確な日影計算は、建築計画の初期段階から非常に重要な作業となります。


1.2. 発散方式(日影時間積算方式)の基本的な考え方


「発散方式」とは、日影規制の適合性を判断するために用いられる等時間日影図を作成するための代表的な手法の一つです。「日影時間積算方式」や「日影時間図法」とも呼ばれます。


その基本的な考え方は、建物の日影を作る主要な頂部(角や屋根の端など)から、冬至日の太陽の動き(太陽軌跡)に合わせて影の先端が移動する軌跡(日影線または影時間線)を描き、測定水平面上の各地点がどれくらいの時間日影になるかを積算していくというものです。太陽が空を移動するにつれて、建物の影も形を変えながら移動します。発散方式では、この影の動きを追いかけ、各地点の日影時間を丹念に拾い上げていくイメージです。この積算結果を基に、同じ時間だけ日影になる地点を結んで等時間日影線を描き、日影図を完成させます。


1.3. 発散方式が用いられる背景と目的


発散方式が用いられる主な目的は、日影規制で定められた許容日影時間を超える範囲がないかを正確に把握することです。特に、複雑な形状の建物や複数の建物が近接している場合など、単純な時刻ごとの日影(時刻日影)を重ね合わせるだけでは評価が難しいケースでも、発散方式を用いることで、各地点の日影時間をより厳密に算出することが可能です。


古くは手計算と専用の作図道具(日影曲線定規など)を用いて行われてきましたが、その計算原理は現在のCADソフトによる日影計算アルゴリズムの基礎ともなっています。日影規制が導入された当初から、その適合性を検証するための標準的な手法として認識されてきました。


2.発散方式による日影計算の具体的な作図方法と手順


発散方式による日影計算と等時間日影図の作成は、いくつかのステップに分かれます。ここでは、その具体的な作図方法と手順の概要を解説します。


2.1. 準備:必要な図面と情報(平面図、立面図、太陽軌跡図、測定面の高さなど)


発散方式による計算を始める前に、以下の図面や情報が必要となります。

  • 建物の正確な図面:平面図、立面図、配置図など、建物の形状、高さ、敷地内での位置が正確にわかるもの。

  • 敷地情報:敷地の形状、方位(真北)、高低差など。

  • 日影規制の内容:適用される用途地域、規制時間(5mライン、10mラインごとの許容時間)、測定水平面の高さ。

  • 太陽軌跡図:冬至日の太陽の高度と方位を時間ごとに示した図。緯度によって異なります。

  • 計算用具:CADソフト(推奨)または、三角スケール、日影曲線定規、トレーシングペーパーなど(手計算の場合)。


これらの情報が揃って初めて、正確な日影計算が可能になります。


2.2. 手順1:日影を落とす建物の頂部特定と日影線の作図


まず、建物の中で日影を形成する主要な頂部(例えば、建物の角、屋根の棟の端など)を特定します。そして、これらの各頂部について、冬至日の太陽の動きに合わせて、その影の先端が測定水平面上をどのように移動するか、その軌跡(日影線)を描いていきます。


太陽は時間とともに東から南を通り西へと移動するため、各頂部の影もそれに応じて測定水平面上を移動します。この軌跡は曲線となり、日影曲線定規やCADソフトの機能を使って作図します。建物の形状が複雑な場合は、影の形状を決定づける複数の頂部から日影線を描く必要があります。


2.3. 手順2:測定面上の各点における日影時間の積算


次に、測定水平面上に評価点(グリッド状に配置したり、特に影響が大きそうなポイントを選んだりします)を設定し、それぞれの評価点がどの頂部の影によって、どの時間帯に日影になるかを判定します。


一つの評価点が、ある時刻にはAという頂部の影に入り、別の時刻にはBという頂部の影に入る、といったことが起こり得ます。また、複数の頂部の影が重なることもあります。各評価点について、午前8時から午後4時(または午前9時から午後3時)までの間で、トータルで何時間日影になるのかを積算していきます。この作業が「日影時間積算」と呼ばれる所以です。


2.4. 手順3:等時間日影線の描画と日影図の完成


最後に、積算された各評価点の日影時間をもとに、同じ時間だけ日影になる地点を滑らかな線で結びます。これが「等時間日影線」です。例えば、「3時間日影になる地点」を結んだ線が3時間等時間日影線、「5時間日影になる地点」を結んだ線が5時間等時間日影線となります。


この等時間日影線を、規制ライン(敷地境界線から5m、10mのライン)と重ね合わせ、規制時間内に収まっているかを確認します。これにより、日影規制の適否を判断するための等時間日影図が完成します。


3.発散方式の特徴:メリット・デメリットと他方式との比較


発散方式には、他の計算方法と比較してどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。


3.1. 発散方式の主なメリット


発散方式の主なメリットとしては、以下の点が挙げられます。

  • 精度の高さ:各地点の日影時間を直接積算するため、理論的には非常に精度の高い日影評価が可能です。特に複雑な形状の建物や、影が複雑に重なり合うような状況でも、詳細な検討ができます。

  • 等時間日影図の直接作成:日影規制の適否判断に直接用いられる等時間日影図を効率的に作成することができます。

  • 原理の理解のしやすさ:太陽の動きに合わせて影の先端を追っていくという原理は、比較的直感的に理解しやすいと言えます。

3.2. 発散方式のデメリットと実務上の注意点


一方で、発散方式には以下のようなデメリットや注意点も存在します。

  • 手計算の場合の手間と時間:建物の頂部が多く、形状が複雑な場合、手計算で作図し積算するには膨大な手間と時間が必要です。計算ミスも起こりやすくなります。

  • 作図の習熟度:特に日影曲線定規などを用いた手作業での作図には、ある程度の習熟度が求められます。

  • 評価点の選定:評価点の取り方によっては、局所的な日影時間のピークを見逃す可能性もゼロではありません。

これらのデメリットから、現在では手計算で発散方式を完全に行うケースは減り、CADソフトによる自動計算が主流となっています。


3.3. 「閉鎖方式」との違いは?


日影計算の手法として、「発散方式」の他に「閉鎖方式」という言葉を聞くことがあります。閉鎖方式とは、一般的に、建物の各面(壁面や屋根面)が、どの範囲のどの方向からの太陽光を遮るかを評価し、それによって生じる日影の範囲を解析する考え方です。特定の一点から見て建物がどの程度の天空を遮るか(天空率)の計算に近いアプローチとも言えます。


発散方式が「点の影の軌跡」を追うのに対し、閉鎖方式は「面の影の影響範囲」を解析するイメージです。どちらの方式も最終的には日影時間を評価することを目的としていますが、計算のプロセスや着眼点が異なります。CADソフトによっては、これらの考え方を組み合わせたアルゴリズムが用いられていることもあります。実務上は、どちらの方式(あるいはその呼称)を用いるかは、使用するCADソフトや特定行政庁の指導によっても変わるため、用語に囚われすぎず、規制をクリアできる正確な日影図を作成することが重要です。


3.4. CADソフトにおける発散方式の扱われ方


現在の建築設計実務では、日影計算のほとんどがCADソフトによって行われています。多くの日影計算機能付きCADソフトは、発散方式の原理に基づいたアルゴリズム、あるいはそれに類する高度な計算ロジックを搭載しています。


設計者は建物の3Dモデルを作成し、敷地情報や規制条件を入力するだけで、比較的短時間で精度の高い等時間日影図や時刻日影図を得ることができます。これにより、設計の効率化と計算精度の向上が図られています。ただし、ソフトが出力した結果を鵜呑みにせず、その前提条件や計算方法の概要を理解しておくことは、適切な設計判断のために依然として重要です。

4.日影規制と発散方式に関するQ&Aと補足事項


最後に、日影規制と発散方式に関してよくある疑問や補足しておきたい事項について触れます。


4.1. 東京都や横浜市など自治体による発散方式の扱いに違いはある?


日影規制の具体的な規制内容(規制時間や測定面の高さなど)は、東京都や横浜市をはじめとする各地方公共団体が条例で定めています。しかし、「発散方式」という計算手法自体は、日影時間を積算して等時間日影図を作成するための普遍的な考え方の一つであり、この手法そのものが自治体によって大きく異なるというわけではありません。


ただし、日影図の提出方法や、計算の前提条件(例えば、考慮すべき建物の付属物など)に関する細かな運用指針が、各特定行政庁(建築指導課など)で示されている場合があります。したがって、計画地の特定行政庁の指導や運用マニュアルを確認し、それに従って日影計算および日影図作成を行うことが重要です。


4.2. 日影規制 発散方式と裁判の関連は?


日影を巡る近隣トラブルが裁判に発展した場合、建築確認申請時に提出された日影図やその計算根拠の妥当性が争点の一つとなることがあります。過去の裁判例において、「発散方式」という計算手法そのものが直接的に問題視されたというよりは、その計算過程の正確性や、前提条件の設定(例えば、地盤面の高さの取り方など)が適切であったかどうかが問われることが多いと考えられます。


日影計算は専門的な知識を要するため、万が一の紛争に備える意味でも、信頼できる方法(適切なCADソフトの使用や専門家への依頼など)で正確な計算を行い、その根拠を明確に示せるようにしておくことが肝要です。


4.3. 発散方式を理解する上での専門家への相談


発散方式を含む日影規制の計算は非常に専門的です。特に複雑な建物形状や敷地条件の場合、あるいは法解釈に迷う場合は、自己判断せずに建築士などの専門家に相談することを強くお勧めします。専門家は、正確な日影計算、適切な日影図の作成、そして特定行政庁との協議など、日影規制に関するあらゆるサポートを提供してくれます。

5.まとめ


「日影規制 発散方式」について、その基本的な考え方から具体的な作図手順、メリット・デメリット、そして関連するQ&Aまで解説しました。発散方式は、建物の頂部からの影の軌跡を追い、各地点の日影時間を積算することで等時間日影図を作成する、日影計算の基本的な手法の一つです。


手計算では手間と時間を要しますが、その原理は現在のCADソフトにも活かされており、日影規制の適合性を判断する上で重要な役割を担っています。「閉鎖方式」との違いや、東京都、横浜市といった自治体ごとの細かな運用指針も意識しつつ、常に正確な日影計算を心がけることが、適法で良好な建築計画を実現するための鍵となります。日影規制に関する理解を深め、適切な対応を行うための一助となれば幸いです。

つくるAI株式会社 編集部
つくるAI株式会社 編集部
2024年7月、トグルホールディングス株式会社より分社化した「つくるAI株式会社」のメディア編集部。デベロッパー様が土地をもっと買えるようになり、売買仲介様の物件の価値の判断がより正確になるツールを提供しています。

おすすめ資料

東京の再開発

「東京の法定再開発」完全ガイド

建築基準法改正

建築基準法の改正で注意すべきこと

人気記事ランキング

サービス

デベNAVIとは

つくるAIの提供するボリュームチェックツール「つくるAI デベNAVI」についてご説明します。

タグ一覧

つくるAI株式会社はトグルホールディングスグループの一員です。

トグルホールディングスは、すべてのまちと、まちをつくる人たちのために、「不動産」「建築」「金融」に関わる様々な取引をわずか1日で完遂できる社会を実現していきます。