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日影による中高層の建築物の制限とは?建築基準法56条の2(日影規制)を完全ガイド


目次[非表示]

  1. 1.「日影による中高層の建築物の制限」の基本を理解する
    1. 1.1. なぜこの制限が必要なのか?法律の目的と背景
    2. 1.2. 規制の対象となる「区域」と「建築物」
    3. 1.3. なぜ特に「中高層の建築物」が制限対象となるのか
  2. 2.【用途地域別】規制内容の具体的な中身を読み解く
    1. 2.1. 影を測定する基準面の高さ「測定水平面」
    2. 2.2. 我慢できる影の時間「日影時間」とは
    3. 2.3. 必ず知っておきたい規制の緩和措置
  3. 3.混同しやすい他の「高さ制限」との違い
    1. 3.1. 斜線制限(道路・隣地・北側)との根本的な違い
    2. 3.2. 絶対高さ制限との関係性と優先順位
    3. 3.3. どの規制が最も厳しくなるか「設計の勘所」
  4. 4.中高層建築物の計画における実務上のポイント
    1. 4.1. 計画初期段階での「日影シミュレーション」の重要性
    2. 4.2. 建てられるボリュームを把握する「逆日影計算」
    3. 4.3. 設計の自由度を高める「天空率」の活用
  5. 5.まとめ

中高層の建築物を計画する際に、避けては通れないのが「日影による中高層の建築物の制限」です。これは建築基準法第56条の2に定められている、通称「日影規制(にちえいきせい)」と呼ばれる重要な法規制を指します。


この規制は、単に建物の高さを制限するだけでなく、周辺の住環境、特に日照に大きな影響を与えるため、その内容は非常に細かく、複雑です。規制の存在を知らずに計画を進めてしまうと、大幅な設計変更や事業計画の見直しを迫られることにもなりかねません。


この記事では、建築・不動産の実務に携わる方々や、土地活用を検討されているオーナー様に向けて、「日影による中高層の建築物の制限」の目的から、具体的な規制内容、他の高さ制限との違い、そして実務で役立つ計画のポイントまで、体系的に分かりやすく解説していきます。


1.「日影による中高層の建築物の制限」の基本を理解する

まず、この法律がどのようなもので、なぜ存在するのか、その基本的な枠組みから確認していきましょう。

1.1. なぜこの制限が必要なのか?法律の目的と背景

「日影による中高層の建築物の制限」、すなわち日影規制の最も重要な目的は、周辺地域の良好な日照環境を保護することにあります。特に住宅地において、近隣に高い建物が建つことで一日中日が当たらなくなってしまうといった事態を防ぎ、人々が健康で快適な生活を送るための最低限の日照を確保するために設けられました。


冬至の日(一年で最も太陽が低く、影が長くなる日)を基準に、敷地境界線の外側にある周辺の土地に落ちる影の時間を一定以下に抑えるよう、建物の形態を制限します。この規制は、個々の建物の利益だけでなく、地域全体の住環境の質を維持するという、公共の福祉の観点から非常に重要な役割を担っているのです。

1.2. 規制の対象となる「区域」と「建築物」

この日影による制限は、日本のどこにでも適用されるわけではありません。対象となるのは、地方公共団体が都市計画によって指定する特定の「区域」内に建築される、一定の高さを超える「建築物」です。

  • 対象区域: 主に住居系の用途地域(第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域など)や、一部の商業地域、工業地域が対象となります。具体的な対象区域は、各市区町村の都市計画図や建築指導課などで確認が必要です。
  • 対象建築物: 対象区域内であっても、すべての建物が規制対象になるわけではありません。軒の高さが7mを超える建築物、または地階を除く階数が3以上の建築物などが主な対象です(低層住居専用地域など)。また、それ以外の区域でも、高さ10mを超える建築物が対象となります。


つまり、比較的小規模な住宅などを除く、中規模から大規模な「中高層の建築物」が、この規制の主なターゲットとなります。

1.3. なぜ特に「中高層の建築物」が制限対象となるのか

規制の名称に「中高層の建築物」とあるように、この法律が特にこれらの建物を対象とするのには明確な理由があります。低層の建物が周辺に落とす影は、その影響範囲が限定的です。しかし、建物が高層化するにつれて、その影は遠くまで伸び、より広範囲に、そして長時間にわたって周辺の日照を遮るようになります。


特に人口が密集する都市部では、中高層マンションやオフィスビルが隣接して建ち並ぶことが多く、日照権をめぐるトラブルが発生しやすくなります。そこで、周辺環境への影響が大きい「日影による中高層の建築物の制限」を設けることで、建物の高層化と周辺の住環境との調和を図っているのです。この規制があるからこそ、私たちは都市部においても一定の日当たりが確保された環境で生活できると言えるでしょう。


2.【用途地域別】規制内容の具体的な中身を読み解く

日影規制の具体的な内容は、対象となる用途地域によって細かく異なります。ここでは、その規制を構成する重要な要素について解説します。

2.1. 影を測定する基準面の高さ「測定水平面」

日影規制では、地面に落ちる影をそのまま測定するわけではありません。実際に影響を受ける隣地の窓の高さなどを想定し、一定の高さの「面」に落ちる影の時間を測定します。この基準となる面を「測定水平面」と呼びます。


測定水平面の高さは、地方公共団体の条例によって定められますが、一般的には以下のように設定されています。

  • 第一種・第二種低層住居専用地域など: 平均地盤面から1.5mの高さ。これは一般的な住宅の1階の居室の窓を想定した高さです。
  • 第一種・第二種中高層住居専用地域など: 平均地盤面から4mまたは6.5mの高さ。これはマンションの2階や3階の窓などを想定しています。


どの高さの測定水平面が適用されるかによって、許容される建物の形状は大きく変わります。

2.2. 我慢できる影の時間「日影時間」とは

「日影時間」とは、測定水平面の上に、建物によって生じる影がとどまる時間のことを指します。日影規制では、この日影時間を一定時間内に収めることを求めています。この「我慢できる時間」も、用途地域や測定水平面の高さによって、複数のパターンが定められています。


例えば、敷地境界線から5mを超え10m以内の範囲では5時間まで、10mを超える範囲では3時間まで、といった具合です。これを「5h-3h」のように表記します。この日影時間の組み合わせは、条例によって数種類定められており、その中からどの規制を適用するかは、地方公共団体が地域の実情に応じて選択します。

2.3. 必ず知っておきたい規制の緩和措置

厳しい規制である一方、一定の条件を満たすことで規制が緩和される措置も存在します。これをうまく活用することが、事業性を高める上で重要になります。

  • 敷地が道路や川に面する場合: 敷地が道路、川、公園などに接している場合、その反対側の境界線を基準に日影計算ができるため、規制が有利になります。
  • 敷地と道路に高低差がある場合: 敷地の地盤面が前面道路より1m以上高い場合、一定の計算式に基づいて地盤面の位置を調整し、規制を緩和します。
  • 同一敷地内に2以上の建築物がある場合: 複数の建物を1つの建築物とみなして計算できるため、設計の自由度が増すことがあります。

これらの緩和規定は、日影による中高層の建築物の制限を乗り越えるための重要な鍵です。適用条件を正確に理解し、計画に反映させましょう。 

3.混同しやすい他の「高さ制限」との違い

建築計画において、建物の高さを制限するルールは日影規制だけではありません。ここでは、よく混同されがちな他の高さ制限との違いを明確にしておきましょう。

3.1. 斜線制限(道路・隣地・北側)との根本的な違い

斜線制限は、道路や隣地境界線、真北の一定の高さから、敷地に向かって引かれる斜めの線(斜線)の範囲内に建物を収めなければならないという規制です。目的は、道路や周辺の採光、通風を確保することです。

  • 日影規制との最大の違いは、規制のアプローチです。
  • 斜線制限: 建物の「形態」そのものを、物理的な斜線で直接的に制限します。
  • 日影規制: 建物がつくりだす「影の時間」という”現象”を間接的に制限します。

このため、斜線制限をクリアしていても日影規制をクリアできない、あるいはその逆のケースも発生します。両者は全く別の規制として、それぞれ検討する必要があります。

3.2. 絶対高さ制限との関係性と優先順位

絶対高さ制限は、第一種・第二種低層住居専用地域などで適用される、最もシンプルな高さ制限です。この地域では、建物の高さは10mまたは12m以下にしなければならない、と絶対的な数値で定められています。


日影規制と絶対高さ制限の両方が適用される地域では、当然ながら両方の基準を満たす必要があります。例えば、絶対高さが10mの地域では、日影規制の計算上は11mの高さまで建てることが可能だったとしても、10mを超えることはできません。常に、より厳しい方の規制が優先されると覚えておきましょう。

3.3. どの規制が最も厳しくなるか「設計の勘所」

建物のボリュームを最終的に決定づけるのは、これら複数の高さ制限の中で、最も厳しい条件となる規制です。これを「クリティカルな規制」と呼びます。


例えば、北側に道路がある敷地では、北側斜線制限は緩やかになりますが、南側の隣地への影響が大きくなるため日影規制が厳しくなる傾向があります。一方で、敷地の形状や周辺状況によっては、隣地斜線制限が最もクリティカルになることもあります。


経験豊富な設計者は、計画の初期段階で敷地条件を読み解き、どの高さ制限が最も厳しく作用するかを予測します。この「見極め」こそが、効率的で無駄のない設計を進めるための重要な「勘所」なのです。

4.中高層建築物の計画における実務上のポイント

最後に、「日影による中高層の建築物の制限」をクリアし、優れた建築計画を実現するための実務的なポイントを紹介します。

4.1. 計画初期段階での「日影シミュレーション」の重要性

現代の建築設計において、日影シミュレーションは不可欠なツールです。BIM/CIMやCADソフトを使えば、計画中の建物が冬至の日にどのような影を落とすかを、時間ごとに正確に3Dで可視化できます。シミュレーションを行うことで、

  • 規制をクリアできるかどうかの正確な判定
  • 問題点がある場合の建物の形状修正(どこを削ればよいか)
  • 近隣住民への説明会での分かりやすい資料作成

などが可能になります。感覚や手計算だけに頼るのではなく、科学的なデータに基づいて設計を進めることが、手戻りを防ぎ、プロジェクトの成功確率を高めます。

4.2. 建てられるボリュームを把握する「逆日影計算」

「逆日影計算」は、通常のシミュレーションとは逆のアプローチです。指定された日影規制の範囲内で、建築可能な最大の建物のボリューム(空間)を割り出す計算手法です。


この手法を用いると、計画の初期段階で、その敷地に建てられる建物の最大ボリュームを正確に把握することができます。これにより、事業採算性の検討や、デザインの方向性を決める上での強力な根拠となります。特に複雑な形状の敷地や厳しい規制がある場所で、土地のポテンシャルを最大限に引き出すために非常に有効なツールです。

4.3. 設計の自由度を高める「天空率」の活用

天空率は、建物の形態を直接制限する斜線制限に対する緩和規定として知られていますが、間接的に日影規制の計画にも影響を与えます。


斜線制限によって建物の形状が大きく削られてしまう場合でも、天空率計算をクリアすることで、より自由な形態の建物を建てることが可能になります。その結果、生まれた設計の自由度の中で、日影規制をクリアするための形状の工夫(例えば、建物の高さを部分的に調整するなど)がしやすくなる場合があります。日影規制そのものを緩和するわけではありませんが、他の高さ制限を天空率でクリアすることで、結果的に日影規制への対応が容易になるケースがあることは、覚えておくとよいでしょう。

5.まとめ

「日影による中高層の建築物の制限」(日影規制)は、良好な都市環境を維持するために不可欠な、非常に重要な法規制です。その内容は用途地域によって細かく定められており、一見すると複雑で難解に感じられるかもしれません。


しかし、その目的や測定方法のルール、そして斜線制限などの他の規制との違いを正しく理解することで、それは単なる「制限」ではなく、周辺環境と調和した優れた建築物を生み出すための「指針」となります。


特に中高層の建築物の計画においては、初期段階での正確な情報収集と、シミュレーションや逆日影計算といった専門的な技術の活用がプロジェクトの成否を分けます。本記事が、皆様の実務において、この複雑な規制を乗りこなし、事業を成功に導くための一助となれば幸いです。

つくるAI株式会社 編集部
つくるAI株式会社 編集部
2024年7月、トグルホールディングス株式会社より分社化した「つくるAI株式会社」のメディア編集部。デベロッパー様が土地をもっと買えるようになり、売買仲介様の物件の価値の判断がより正確になるツールを提供しています。

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