
建築BIM加速化事業:業界の未来を変える国土交通省の画期的な取り組み
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建築業界において、BIM(Building Information Modeling)の導入は避けられない潮流となっています。
そんな中、国土交通省が推進する「建築BIM加速化事業」が注目を集めています。
この記事では、建築BIM加速化事業の概要、メリット、そして業界への影響について詳しく解説します。
1.建築BIM加速化事業とは
建築BIM加速化事業は、国土交通省が令和4年から開始した補助事業です。
この事業の目的は、建築業界におけるBIMの普及と活用を促進することにあります。
具体的には、一定の要件を満たす建築プロジェクトにおいて、複数の事業者が連携してBIMデータの作成等を行う場合に、BIMソフトウェアや関連機器の導入費用、さらには講習等に要する費用に対して国が補助を行うというものです。
1.1.補助金の概要
建築BIM加速化事業における補助金の概要は以下の通りです。
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補助対象:BIMモデル作成に要したハードウェア・ソフトウェア・人件費等
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補助限度額:
設計費:最大3,500万円
建設工事費:最大5,500万円
補助限度額は建築物の延べ面積によって異なり、詳細は以下の表の通りです。
延べ面積 |
設計費 |
建設工事費 |
10,000m² 未満 |
2,500万円 |
4,000万円 |
10,000m² 以上 30,000m² 未満 |
3,000万円 |
5,000万円 |
30,000m² 以上 |
3,500万円 |
5,500万円 |
1.2.補助対象経費の例
建築BIM加速化事業の補助対象となる経費には、以下のようなものが含まれます。
- BIMソフトウェア利用費(購入、サブスクリプション、レンタルを含む)
- BIMソフトウェア関連費(PCリース料、ARゴーグル料等)
- CDE(Common Data Environment)環境構築費、利用費
- BIMコーディネーターの人件費
- BIMマネジャーの人件費
- BIM講習の実施費用
- BIMモデラーの人件費(施工BIMにおいてBIMマネジャーの作業を支援するものに限る)
2.建築BIM加速化事業のメリット
建築BIM加速化事業には、建築業界全体にとって多くのメリットがあります。
以下に主なメリットを詳しく解説します。
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BIM導入の経済的負担の軽減
BIMの導入には高額なソフトウェアやハードウェアの購入が必要となり、特に中小規模の企業にとっては大きな経済的負担となっていました。建築BIM加速化事業による補助金は、この初期投資の負担を大幅に軽減し、より多くの企業がBIMを導入しやすい環境を作り出します。
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BIM人材の育成促進
BIMの効果的な活用には、専門的な知識とスキルを持つ人材が不可欠です。この事業では、BIM講習の実施費用も補助対象となっており、企業内でのBIM人材の育成を促進します。これにより、業界全体のBIMスキル向上が期待できます。
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建築プロジェクトの効率化
BIMの導入により、設計から施工、そして維持管理に至るまでの建築プロジェクト全体の効率化が図れます。例えば、設計段階での修正が自動的に関連する全ての図面に反映されるため、手作業による修正の手間が大幅に削減されます。
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クライアントとのコミュニケーション改善
BIMを活用することで、3Dモデルを用いた視覚的なプレゼンテーションが可能となり、クライアントとのコミュニケーションが円滑になります。これにより、「思い違い」や「勘違い」による手戻りを減らし、プロジェクトの質の向上と時間短縮を同時に実現できます。
3.建築BIMが普及しにくい理由と解決策
建築BIM加速化事業の重要性を理解するためには、これまでBIMが普及しにくかった理由を知ることが重要です。
以下に主な理由と、建築BIM加速化事業がどのようにこれらの課題を解決するかを説明します。
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高い導入コスト
BIMソフトウェアやハードウェアの導入には多額の費用がかかります。
建築BIM加速化事業は、これらの費用の一部を補助することで、特に中小企業にとってのBIM導入の障壁を低くします。
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習熟に時間がかかる
BIMの効果的な活用には、ソフトウェアの操作スキルだけでなく、BIMを活用したワークフローの理解も必要です。
建築BIM加速化事業では、BIM講習の費用も補助対象となっており、企業内での効率的な人材育成を支援します。
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業界全体での普及の遅れ
BIMの効果を最大限に発揮するには、設計者、施工者、発注者など、プロジェクトに関わる全ての関係者がBIMを理解し活用する必要があります。
建築BIM加速化事業は、業界全体でのBIM普及を加速させ、この課題の解決を目指しています。
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BIMマネージャーの不足
BIMプロジェクトを効果的に管理するBIMマネージャーの不足も、普及を妨げる要因の一つでした。
建築BIM加速化事業では、BIMマネージャーの人件費も補助対象となっており、専門人材の育成と確保を支援します。
4.建築BIM加速化事業の活用事例
建築BIM加速化事業の効果を具体的に理解するため、実際の活用事例を紹介します。
4.1.新宿労働総合庁舎プロジェクト
新宿労働総合庁舎は、建築BIMを活用した官庁営繕事業の先駆的な事例です。
このプロジェクトでは、以下のような点でBIMが効果的に活用されました。
- 内外装の色彩計画やサイン計画の可視化
- 設計初期段階からのシミュレーション(ライトシェルフの採用可否、自然換気など)
- 関係者間での内外装イメージの共有
このプロジェクトは、延床面積約3,500㎡の庁舎を対象としており、基本設計段階からBIMを活用することで、設計の質の向上と関係者間のコミュニケーション改善を実現しました。
4.2.MREALを活用したプロジェクト
キヤノンのMRシステムMREALを建築BIM加速化事業の補助金を活用して導入した事例もあります。
MREALを活用することで、以下のようなメリットが得られました。
- 設計の初期段階からBIMデータをMRで確認し、発注者・エンドユーザーとの合意形成を効率化
- 事前の課題抽出と設計への反映による追加工事などの不要なコストの抑制
- MRを使った事前検証による維持管理者のメンテナンス性向上
- デジタルモックアップ化によるコスト削減と顧客意見のリアルタイム反映
これらの事例は、建築BIM加速化事業が単なる補助金制度ではなく、建築プロジェクトの質と効率を大幅に向上させる可能性を持つことを示しています。
5.建築BIM加速化事業の今後の展望
建築BIM加速化事業は、建築業界のデジタル化と生産性向上を加速させる重要な施策です。
今後、この事業を通じてBIMの普及が進むことで、以下のような変化が期待されます。
- 建築プロジェクトの効率化と品質向上
- 建築業界全体のデジタルスキル向上
- 新たなビジネスモデルやサービスの創出
- 国際競争力の強化
また、国土交通省は2023年までに小規模工事以外の全ての公共事業にBIM/CIMを原則適用することを決定しており、建築BIM加速化事業はこの目標達成を支援する重要な役割を果たすことが期待されています。
6.まとめ
建築BIM加速化事業は、建築業界のデジタル化と生産性向上を加速させる画期的な取り組みです。
この事業を通じて、BIM導入の経済的負担が軽減され、BIM人材の育成が促進されることで、建築プロジェクトの効率化とクライアントとのコミュニケーション改善が期待できます。
また、これまでBIMが普及しにくかった理由である高い導入コスト、習熟に要する時間、業界全体での普及の遅れ、BIMマネージャーの不足などの課題に対しても、この事業は有効な解決策を提供しています。
新宿労働総合庁舎プロジェクトやMREALを活用したプロジェクトなどの実際の活用事例は、建築BIM加速化事業の効果を具体的に示しており、今後のさらなる普及が期待されます。
建築業界に携わる全ての関係者にとって、建築BIM加速化事業は大きなチャンスです。
この機会を活用し、BIMの導入や活用を積極的に進めることで、個々の企業の競争力向上だけでなく、業界全体の発展に貢献することができるでしょう。