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天空率を角地で使うには?2面道路の計算方法と注意点をプロが解説

1. はじめに:角地のポテンシャルを天空率で最大限に引き出す

2面以上の道路に接する「角地」は、採光や通風、アプローチ計画において有利な条件を持つ、非常にポテンシャルの高い敷地です。建築基準法においても、建ぺい率の緩和が受けられるなど、設計上のメリットが多くあります。しかしその一方で、複数の道路斜線制限が掛かるため、高さ方向の設計は一層複雑になります。

この複雑な高さ制限をクリアし、角地の価値を最大限に引き出すための強力な武器が「天空率」です。しかし、2面道路の天空率計算は、1面の道路に接する場合とは異なり、特有のルールと難しさがあります。「それぞれの道路で別々に計算するのか?」「角の部分はどう扱えばいいのか?」など、多くの設計者が疑問に思う点です。

この記事では、2面道路(角地)における天空率の正しい計算方法と、その考え方の核心である「一の天空率」について、具体的なフローから注意点までをプロの視点で徹底的に解説します。

2. 2面道路(角地)における天空率計算の基本

まずは、なぜ角地の天空率計算が特別で、どのような基本原則に則って行われるのかを理解しましょう。

2.1. なぜ角地の天空率計算は複雑なのか?

角地が複雑なのは、2つの異なる方向からの道路斜線が同時にかかってくるためです。それぞれの道路が持つ幅員や、敷地との接し方によって、2つの異なる斜線制限が敷地の上空で干渉しあいます。これを個別に扱おうとすると、特に建物の隅角部での高さの解釈が非常に難しくなります。また、それぞれの斜線制限に対して個別に天空率を計算し、両方をクリアする、という手法も考えられますが、これは設計の自由度を大きく損なう可能性があります。

2.2. 原則は「一の天空率」として一体で算定する

そこで、建築基準法では、2面以上の道路に接する敷地の天空率計算について、合理的な解決策を用意しています。それが「一の天空率(いちのてんくうりつ)」という考え方です。これは、複数の道路を一体のものとしてみなし、1つの連続した天空率算定区域として統合して計算する手法です。

つまり、2つの道路を別々に考えるのではなく、コーナーで繋がった「L字型の1本の道路」として扱うイメージです。これにより、複雑な斜線の干渉を考慮する必要がなくなり、1回の計算で敷地全体の天空率を評価することが可能になります。実務上、2面道路の天空率計算は、この「一の天空率」で算定するのが大原則となります。

2.3. なぜ一体計算(一の天空率)が有利なのか?

「一の天空率」で計算することが、なぜ設計者にとって有利に働くのでしょうか。その理由は、天空率の「平均化」の効果にあります。例えば、片方の道路が広く、天空率に余裕がある場合、その「余裕分」をもう一方の厳しい道路側を補うように利用できるのです。

もし別々に計算すると、厳しい方の道路斜線をクリアするために、建物の一部を大きく削る必要が出てくるかもしれません。しかし、一体で計算すれば、広い道路側の開放感を活かして、敷地全体として天空率の基準をクリアすることが可能になります。これにより、より合理的で自由度の高い建物形状を実現できるのです。

3. 【実践】2面道路での天空率計算フロー

「一の天空率」の概念を理解したところで、次はその具体的な計算フローを見ていきましょう。専門のソフトウェアで行うのが一般的ですが、その裏で何が行われているかを知ることが重要です。

3.1. ステップ1:適用距離と算定区域の設定(隅角部の扱い)

まず、それぞれの道路について道路斜線の適用距離を算出し、それを基に天空率を算定する区域を決定します。2面道路の場合、それぞれの道路から設定された算定区域がコーナー部分で重なります。この重なった部分も含めて、L字型の連続した算定区域として定義します。特に隅角部では、道路境界線の交点から、それぞれの道路の中心線に向かって引かれた線で囲まれた領域として、算定区域が明確に定められています。

3.2. ステップ2:適合建築物の生成(一体での作成)

次に、比較対象となる適合建築物を作成します。ここが「一の天空率」の核心部分です。2つの道路斜線を個別に当てはめるのではなく、両方の道路斜線を同時に満たすように、一体の適合建築物を生成します。その結果、適合建築物は、敷地のコーナー部分で両方の斜線によって削り取られたような、複雑な屋根形状を持つことになります。この一体化された適合建築物と、計画建築物の天空率を比較するのです。

3.3. ステップ3:測定点の配置と隅角部の処理

測定点は、それぞれの道路の中心線(または反対側の境界線)上に、規定の間隔で配置していきます。問題は、道路が交差する隅角部の扱いです。ここでも測定点を途切れさせることなく、連続して配置する必要があります。一般的には、道路の交差点を中心に、角度を考慮してコーナーに沿うように測定点をプロットします。この隅角部の測定点配置は、天空率計算ソフトが自動で行ってくれますが、計算の信頼性を担保する重要なプロセスです。

4. 2面道路の天空率を成功させるポイントと注意点

最後に、2面道路の天空率計算を成功に導くための、実務的なポイントと注意点を押さえておきましょう。

4.1. 天空率計算ソフトの活用は必須

ここまで説明してきた通り、2面道路における「一の天空率」の計算は、算定区域、適合建築物、測定点のいずれの生成も非常に複雑です。これを手計算や汎用のCADで行うことは、ほぼ不可能です。したがって、ADS-winなどの専用の天空率計算ソフトを活用することが、事実上必須となります。ソフトウェアを導入することで、これらの複雑な計算を自動化し、設計者は本来の設計業務に集中することができます。

4.2. 道路斜線以外の斜線制限(北側・隣地)との関係

角地であっても、道路に面していない方位には、当然ながら北側斜線や隣地斜線制限が適用される可能性があります。その場合、「一の天空率」で道路斜線をクリアすると同時に、別途、北側斜線や隣地斜線に対しても、それぞれのルールに則った天空率計算を行い、それもクリアする必要があります。複数の天空率計算を同時に満たす、複合的な検討が求められるため、注意が必要です。

4.3. 道路の幅員や交差角度による影響

2つの道路の幅員が大きく異なる場合や、道路が直角ではなく鋭角や鈍角で交差している場合、天空率の計算はさらに複雑になりますが、基本的な「一の天空率」の考え方は同じです。幅員の広い道路の有利な条件を、幅員の狭い道路側に活かせるというメリットは、こうしたケースでより顕著になります。どのような条件であっても、まずは一体で計算することを検討するのがセオリーです。

5. まとめ

今回は、設計上有利でありながら法規解釈が複雑な、2面道路(角地)における天空率の計算方法について解説しました。

最大のポイントは、2つの道路を別々に考えるのではなく、「一の天空率」として一体で計算するという原則です。これにより、片方の道路の有利な条件をもう一方に融通することができ、敷地全体のポテンシャルを最大限に活かした、自由度の高い設計が可能になります。

この計算は非常に複雑で、専用ソフトウェアの活用が不可欠ですが、その背景にある「一体で計算する」という考え方を理解しているかどうかが、設計の質を大きく左右します。角地という恵まれた条件を最大限に活かすためにも、ぜひ「一の天空率」をマスターし、あなたの設計の武器にしてください。

つくるAI株式会社 編集部
つくるAI株式会社 編集部
2024年7月、トグルホールディングス株式会社より分社化した「つくるAI株式会社」のメディア編集部。デベロッパー様が土地をもっと買えるようになり、売買仲介様の物件の価値の判断がより正確になるツールを提供しています。

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