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【天空率】「2aかつ35m」の謎を解く!道路斜線制限の適用距離と天空率の賢い使い方

建築設計、特に都市部の商業地域などにおける大規模なプロジェクトに携わる中で、「2aかつ35m」というキーワードに出会ったことはないでしょうか。これは、建築基準法の道路斜線制限における非常に専門的で、しかし重要な緩和規定に関する用語です。そして、この規定をどう解釈し、天空率とどう組み合わせるかが、設計の自由度と建築物の価値を大きく左右します。

「適用距離(2a)の緩和を使えば、天空率は不要?」「天空率を使う場合、35mのラインはどう扱えばいいの?」といった実務上の疑問は、多くの設計者が抱えるところでしょう。 この記事では、この複雑で難解な「2aかつ35m」の規定と天空率の関係性に焦点を当て、その基本的な考え方から、どちらが有利なのかの比較、そして天空率を最大限に活用するための実践的な設計戦略までを、専門家の皆様に向けて徹底的に解説します。

1. まずは基本から!道路斜線制限の「適用距離(2a)」とは?

本題に入る前に、まずは「2a」や「35m」が何を指しているのか、その背景にある道路斜線制限の基本からおさらいしましょう。この基礎知識が、天空率との関係を理解する上で不可欠です。

1.1. 道路斜線制限の基本的な考え方と目的

ご存知の通り、道路斜線制限(建築基準法第56条第1項第1号)は、建築物の前面道路の反対側の境界線から敷地に向かって引かれる仮想の斜線によって、建築物の高さを制限する規定です。その主な目的は、道路の採光や通風を確保し、周辺環境の圧迫感を軽減することにあります。 この斜線制限により、特に道路に面した部分の建物形状は大きく制約を受け、上層階がセットバックした形態になりがちです。この画一的な形態制限を、より合理的な手法で緩和するのが天空率制度の役割の一つです。

1.2. 緩和規定としての「適用距離」:令第132条の解説

道路斜線制限には、一定の条件下で制限が適用されなくなる緩和規定が存在します。それが、建築基準法施行令第132条に定められる「適用距離」です。これは、前面道路の反対側の境界線から一定の距離(適用距離)を超える建築物の部分については、道路斜線制限が適用されなくなるというものです。 この適用距離は、俗に「2a」と呼ばれることがあります。

これは、かつての法令条文の表中で、この距離が記号「2a」を用いて示されていたことに由来すると言われています。この適用距離は用途地域ごとに定められており、20m、25m、30m、35mの4種類があります。

1.3. 「35m」が適用される地域とその設計上の特徴

今回のキーワードである「35m」は、この適用距離が最も長いケースです。具体的には、商業地域、近隣商業地域、工業地域、工業専用地域などで、建ぺい率や容積率の指定によってこの数値が適用されます。 これらの地域は、比較的規模の大きな建築物が建てられることを想定しており、道路から35mを超える敷地の奥の部分については、道路環境への影響が少ないと判断され、斜線制限が一律に解除されます。これにより、敷地が広い場合には、奥の部分で高さを確保しやすくなるという特徴があります。

2. 「適用距離の緩和」と「天空率」はどちらが得か?

前面道路から35mを超える部分では道路斜線制限がなくなるのであれば、天空率を使う必要はないのでしょうか?ここでは、「適用距離(2a)の緩和」だけを使うケースと、「天空率」を使うケースを比較し、どちらが設計上、有利に働くのかを検証します。

2.1. ケース①:「適用距離の緩和」のみを適用するメリットと限界

まず、天空率を使わずに、令第132条の適用距離の緩和のみを利用するケースを考えてみましょう。

  • メリット:

    • 天空率のような複雑な計算やシミュレーションが不要なため、設計や確認申請のプロセスが比較的シンプルです。35mのラインまでは斜線制限を守り、それを超える部分では制限を無視して計画できます。

  • 限界:

    • 道路から35mまでの部分は、依然として厳しい斜線制限下にあります。そのため、建物の手前側は斜めに大きく削られ、有効な床面積を確保しにくい場合があります。また、35mのラインを境に、建物の高さが不自然に急変する「段差」のような形態になりがちで、デザイン上の制約が大きくなります。

この手法は、敷地が非常に広大で、35mを超える奥の部分だけで必要なボリュームが十分に確保できる場合などには有効ですが、多くの都市型建築では最適な解決策とは言えないことが多いです。

2.2. ケース②:「天空率」を適用するメリットと設計の自由度

次に、適用距離の緩和に頼らず、敷地全体で天空率を適用するケースです。

  • メリット:

    • 最大のメリットは、道路から35mまでの部分も含めて、敷地全体で斜線制限の適用をなくせることです。これにより、35mラインで生まれる不自然な段差を解消し、建物全体で一体感のある、より自由で合理的なボリューム計画が可能になります。建物のファサードデザインの自由度も飛躍的に向上します。

  • 限界:

    • ご存知の通り、天空率の計算は専門のCADソフトを必要とし、複雑なシミュレーションと検証が求められます。そのため、設計コストや時間がかかる点がデメリットと言えます。

天空率を適用すれば、適用距離の概念に縛られることなく、建物全体の形状を最適化できる可能性が生まれます。

2.3. 【比較】それぞれの適用ケースと判断基準

どちらの手法を選択すべきか、その判断基準を整理します。(※実際の記事では、この部分を表形式で表現するとより分かりやすくなります)

  • 適用距離の緩和が向いているケース:

    • 概要: 複雑な計算を避けたい場合や、敷地が極めて広く、35mを超える奥のエリアだけで計画が完結する場合。

    • 判断基準: 設計の初期段階で、道路側のボリュームを大きく必要としないことが明確なプロジェクト。コストとスピードを最優先する場合。

  • 天空率の適用が向いているケース:

    • 概要: 敷地全体のポテンシャルを最大限に引き出したい場合。特に道路側の空間を有効活用したい、あるいはデザイン性の高い建築を目指す場合。

    • 判断基準: 道路から35m以内の部分の床面積が事業性に大きく影響するプロジェクト。建物全体のボリュームやデザインの最適化を目指す場合。

結論として、多くのケース、特に敷地を最大限有効活用したい都市部の建築においては、天空率を適用する方が圧倒的に有利と言えるでしょう。

3. 実践編:「2aかつ35m」の敷地で天空率を最大限活用する方法

天空率が有利であると理解した上で、次に問題となるのが「では、具体的にどう計算・計画するのか」という実務上の話です。ここでは、「2aかつ35m」の敷地で天空率を適用する際のポイントを解説します。

3.1. 天空率計算における測定点の設定と考え方

天空率計算の要である測定点(算定位置)は、道路斜線制限の場合、原則として前面道路の中心線上に設定します。ここで重要なのは、天空率を適用する際には、令第132条の適用距離(35m)のラインで測定点を区切る必要はないということです。 天空率制度は、斜線制限とは別の評価軸で「空間の開放感」を評価する独立したルールです。そのため、適用距離のラインに関わらず、道路斜線制限が適用される範囲全体で測定点を設定し、計画建築物全体の天空率を評価するのが基本的な考え方となります。これにより、敷地全体を一体として捉えた計画が可能になるのです。

3.2. 適用距離内外を一体で評価する天空率の強み

天空率の真価は、この「一体評価」にあります。適用距離の緩和だけを用いる場合、35mのラインで「斜線がかかる部分」と「かからない部分」が分断されてしまいます。 しかし天空率では、例えば道路に近い部分で斜線から大きくはみ出す計画をしたとしても、35mを超える奥の部分で空が広く見えていれば(つまり、建物を低く抑えるなどすれば)、全体の天空率として基準をクリアできる可能性があります。

このように、敷地内でボリュームの貸し借りをするような、柔軟なマスデザインが可能になるのです。これは、適用距離の緩和だけでは決して実現できない、天空率ならではの大きな強みです。

3.3. 事例で考える:大規模敷地における設計戦略

具体的な設計戦略を考えてみましょう。商業地域にある間口が広く奥行きが40mの敷地を想定します。

  1. 計画初期: まずは、天空率を使わずに適用距離の緩和だけで計画してみます。道路から35mまでは斜線がかかり、奥の5mだけが自由になります。これでは、道路側の商業施設としての顔となる部分が窮屈になり、魅力的な空間を作るのは難しいでしょう。

  2. 天空率の適用: 次に、敷地全体で天空率を適用します。道路側は、人々を惹きつけるために高さを出し、象徴的なデザインとします。その代わり、35mを超える奥の部分は、バックヤードや駐車場として高さを抑え、天空率を稼ぐための「空地」として利用します。

  3. 最適化: このように計画することで、道路側の価値を最大化しつつ、敷地全体としても法規をクリアする、合理的で事業性も高い建築計画が実現できます。

このように、「2aかつ35m」の規定を理解した上で天空率を戦略的に用いることが、設計の可能性を大きく広げる鍵となるのです。

4. まとめ

今回は、建築設計における専門的なテーマ「2aかつ35m」と天空率の関係について、その基本から実践的な活用法までを掘り下げて解説しました。

道路斜線制限の緩和規定である「適用距離(2a)」は、一見すると便利なルールですが、35mラインで建物が分断されるなど、設計上の限界も存在します。一方で、天空率を適用すれば、この35mというラインに縛られることなく、敷地全体を一体として捉えた、より自由で合理的な建築計画が可能になります。

道路側のファサードを大胆に計画したり、敷地内でのボリュームの融通を利かせたりと、天空率は設計者に多くの選択肢を与えてくれます。もちろん、その適用には専門的な知識と計算が必要ですが、得られるメリットは計り知れません。

「2aかつ35m」の敷地に出会ったとき、それを単なる緩和規定として捉えるのではなく、天空率を組み合わせることで設計の可能性を飛躍させるチャンスと捉えること。それが、これからの建築家に求められる戦略的な視点ではないでしょうか。

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