catch-img

SketchUpで天空率計算をマスター!プラグイン活用法から注意点まで徹底解説

1. はじめに:設計の自由度を拓く「天空率」とSketchUpの可能性

建築設計において、高さに関する規定、特に「斜線制限」は、建物の形状を大きく左右する重要な要素です。しかし、この斜線制限には緩和規定があり、その代表格が「天空率」制度です。天空率を活用することで、斜線制限では建てられないような、より自由度の高い建築デザインが実現可能になります。一方で、天空率の計算は複雑で、従来は専門的なCADソフトや手計算に頼ることが多く、設計プロセスにおいて大きな負担となっていました。

しかし近年、直感的な操作で3Dモデリングが可能な「SketchUp」と、その拡張機能であるプラグインを活用して、天空率の検討を効率的に行う設計者が増えています。設計の初期段階からSketchUp上で天空率のシミュレーションを行うことで、ボリュームスタディと法規チェックを同時に進められ、設計の手戻りを大幅に削減できるのです。

この記事では、SketchUpを使って天空率計算を行うための基礎知識から、具体的な計算フロー、おすすめのプラグイン、そして陥りがちな注意点までを網羅的に解説します。この記事を読めば、SketchUpによる天空率計算の全体像を理解し、実務で活用するための第一歩を踏み出せるはずです。

2. SketchUpで天空率を計算するための基礎知識

まずは、SketchUpで天空率計算に取り組む前に、基本となる知識をおさらいしておきましょう。天空率制度そのものの理解を深め、なぜSketchUpが有効なツールとなり得るのか、その理由を解説します。

2.1. そもそも天空率とは?斜線制限との違いとメリットを再確認

天空率とは、特定の測定ポイントから空を見上げたときに、空が占める割合(天空の広がり)を指します。建築基準法では、計画する建物と、もし斜線制限に適合させて建てた場合(適合建築物)の天空率を比較し、計画建物の天空率が同等かそれ以上であれば、斜線制限の適用を受けないと定められています。

  • 斜線制限との違い: 斜線制限は、道路や隣地の採光・通風を確保するため、建物の高さを一律に制限する規定です。一方、天空率は、実際に空がどれだけ見えるかという「性能」で評価します。これにより、建物のセットバックや形状を工夫すれば、斜線制限のラインを超えて建物を建てられる可能性があります。

  • 天空率活用のメリット: 最大のメリットは、設計の自由度が飛躍的に向上することです。特に、商業地域でのビルの有効活用や、狭小地での居住空間の最大化など、収益性や居住性に直結する場面で大きな効果を発揮します。また、従来のデザインの制約から解放され、より創造的な建築設計が可能になります。

2.2. なぜSketchUpで天空率を検討するのか?3つのメリット

数ある3D CADソフトの中で、なぜ天空率の検討にSketchUpが選ばれるのでしょうか。その背景には、SketchUpならではの3つの大きなメリットがあります。

  • メリット1:直感的でスピーディなモデリング SketchUpの最大の特徴は、プッシュ/プルツールに代表される、粘土をこねるような直感的な操作性です。これにより、設計の初期段階で行うボリュームスタディやマスモデルの作成が非常にスピーディに行えます。天空率を考慮しながら建物の形状をリアルタイムに変更し、即座にシミュレーションできるため、設計の試行錯誤を効率的に進めることが可能です。

  • メリット2:豊富なプラグインによる機能拡張 SketchUp単体では天空率の厳密な計算はできませんが、サードパーティ製の豊富なプラグインを導入することで、専門的な天空率シミュレーション機能を追加できます。日影計算や斜線チェックなど、関連する法規チェック機能を併せ持つプラグインも多く、設計プロセス全体をSketchUp上で完結させることも夢ではありません。

  • メリット3:コストパフォーマンスの高さ 高機能なBIMソフトと比較して、SketchUpは導入コストが比較的安価です。個人や小規模な設計事務所でも導入しやすく、プラグインも必要な機能に応じて選択・購入できるため、コストを抑えながら高度な環境解析環境を構築できます。無料版のSketchUp Freeと手動での検討から始めることも可能です。

2.3. SketchUpでの天空率計算に必要なもの

SketchUpで本格的に天空率計算を行うためには、ソフトウェア本体に加えて、いくつか準備すべきものがあります。自身の設計スタイルや予算に合わせて、最適な組み合わせを選択しましょう。

  • SketchUp Pro(推奨): プラグインの利用や、設計図面として重要なDWG/DXF形式のデータのインポート/エクスポートが可能なため、実務で利用するなら有料版の「SketchUp Pro」が必須となります。正確なモデリングと他ソフトとの連携には欠かせません。

  • 天空率計算用プラグイン: これがなければ始まりません。ボタン一つで複雑な天空率計算を実行し、三斜求積図や計算結果をビジュアルで表示してくれる専用プラグインが必要です。後ほど詳しく紹介しますが、機能や価格帯によって様々な選択肢があります。

  • 正確な敷地情報: 天空率計算の基準となる敷地境界線や道路情報、高低差などのデータは、計算結果の信頼性を担保する上で極めて重要です。測量図や公図など、正確な情報を基にモデリングを行う必要があります。

3. 【実践】SketchUpを使った天空率の計算・解析フロー

それでは、実際にSketchUpで天空率を計算する際の、基本的なワークフローを見ていきましょう。ここでは、専用プラグインを導入した場合の一般的な流れを3つのステップに分けて解説します。

3.1. ステップ1:正確な3Dモデルの作成と準備

天空率計算の精度は、元となる3Dモデルの正確性に大きく依存します。まずは、計算の土台となるモデルを丁寧に作成することが重要です。敷地情報(DXF/DWG)などをインポートし、それを基に敷地、隣地、道路のモデルを作成します。特に、計算の基準となる地盤面(GL)の設定は慎重に行う必要があります。敷地内に高低差がある場合は、その情報も正確に反映させなければなりません。この段階で、天空率を比較するための「適合建築物」と、実際に計画している「計画建築物」の2つのモデルをレイヤーやグループを分けて作成しておきます。

3.2. ステップ2:天空率計算用プラグインの導入と設定

次に、導入した天空率計算用プラグインを起動し、計算のための各種設定を行います。多くのプラグインでは、専用のツールバーやメニューがSketchUpに追加されます。設定項目はプラグインによって異なりますが、一般的には以下のような情報を入力・設定します。

  • 測定点の自動生成: 道路幅員や適用距離に基づき、天空率を測定するポイントを自動で配置します。

  • 建築物情報の割り当て: 作成した3Dモデルのどの部分が「計画建築物」で、どれが「適合建築物」なのかをプラグインに認識させます。

  • 計算条件の設定: 計算の精度や、考慮する範囲などを設定します。

3.3. ステップ3:計算の実行と結果の確認・出力

全ての設定が完了したら、計算実行ボタンをクリックします。モデルの複雑さにもよりますが、プラグインが複雑な計算を自動で行い、数秒から数分で結果が表示されます。結果は、各測定点での天空率の比較(計画建築物 vs 適合建築物)が一覧表で示されるほか、どの測定点がクリアできていないか(NGか)がモデル上で色分け表示されるなど、視覚的に分かりやすく提示されます。OKであれば、その結果を基に設計を進め、NGであれば、モデル形状を修正して再度シミュレーションを繰り返します。最終的には、確認申請に必要な三斜求積図や計算表を出力できるプラグインもあります。

4. おすすめのSketchUp天空率計算プラグイン3選

SketchUp用の天空率計算プラグインはいくつか存在しますが、ここでは国内で広く利用されている、実績のあるプラグインを3つご紹介します。それぞれの特徴を理解し、ご自身の業務内容や使い方に合ったものを選びましょう。

4.1. SU anemo(エスユーアネモ):日影計算から天空率まで対応する統合環境

生活産業研究所が開発する「SU anemo」は、日影計算、逆日影計算、そして天空率計算までを一つのプラグインで完結できる、統合型の環境シミュレーションツールです。

  • 特徴: 天空率だけでなく、設計プロセスで必須となる日影計算もシームレスに行える点が最大の強みです。計算結果は非常に詳細で、行政への提出資料としても活用できるレベルの帳票出力が可能です。BIM/CIM原則適用の流れにも対応しており、大規模なプロジェクトや、日影と天空率を同時に高度なレベルで検討したい場合に最適な選択肢と言えるでしょう。

4.2. 天空率・日影計算 for SketchUp:シンプルで直感的な操作性が魅力

株式会社コンピュータシステム研究所が提供するこちらのプラグインは、その名の通り天空率と日影計算に特化しています。シンプルで分かりやすいインターフェースが特徴です。

  • 特徴: 操作が直感的で、SketchUpの使いやすさを損なうことなく高度な計算機能を利用できます。計算スピードも速く、設計のスタディ段階で気軽に何度もシミュレーションを繰り返したい場合に適しています。コストも比較的手頃で、初めて天空率計算プラグインを導入する方や、小規模な事務所におすすめです。

4.3. ADS-winとの連携:高度な解析と帳票作成を実現

天空率解析のデファクトスタンダードとも言える専用ソフト「ADS-win」とSketchUpを連携させる方法もあります。これはプラグインとは少し異なりますが、非常に強力なワークフローです。

  • 特徴: SketchUpで作成した3DモデルをADS-winにインポートし、ADS-winの高度な解析機能と詳細な帳票作成機能を利用します。SketchUpのモデリングの速さと、ADS-winの解析の信頼性・正確性を両立できるのが最大のメリットです。既にADS-winを導入している設計事務所にとっては、最もスムーズな連携方法となるでしょう。

(※表の挿入を示唆:上記3つのプラグインについて、「価格帯」「主な機能」「特徴」「おすすめユーザー」などをまとめた比較表をここに入れると、読者の理解がより深まります。)

5. SketchUpでの天空率計算を成功させるための注意点

SketchUpとプラグインを使えば、天空率計算は劇的に効率化されます。しかし、便利なツールだからこそ、いくつか注意すべき点があります。これらを怠ると、誤った計算結果を信じてしまい、後工程で大きな手戻りが発生する可能性もあります。

5.1. モデリング精度が結果を左右する!地盤面と測定点の重要性

前述の通り、計算の土台となるモデリングの精度は極めて重要です。特に、地盤面(GL)の設定には細心の注意を払いましょう。敷地に高低差がある場合、平均地盤面を正確に算出し、それを基準にモデルを作成する必要があります。また、プラグインが自動生成する測定点の位置が、行政の指導する位置と一致しているかも確認が必要です。これらの基準設定を誤ると、計算結果全体が信頼性のないものになってしまいます。

5.2. 「適合建築物」と「計画建築物」の正確なモデリング

天空率は、「計画建築物」の天空率が「適合建築物」のそれを上回っているかを確認する計算です。したがって、比較対象である適合建築物(斜線制限なりに建てた場合の仮想の建物)を、法規に則って正確にモデリングすることが不可欠です。少しでも有利な側に間違えて作成してしまうと、審査で指摘を受ける原因となります。プラグインによっては適合建築物を自動生成する機能を持つものもありますが、そのロジックを理解し、正しく生成されているかを確認する視点が大切です。

5.3. 計算結果の過信は禁物!行政協議でのポイント

プラグインが出力した計算結果がOKだったとしても、それがそのまま行政の許可を意味するわけではありません。最終的な判断は、特定行政庁の審査担当者が下します。特に、天空率の解釈は、自治体によってローカルルールや独自の指導が存在する場合があります。計算を始める前に、管轄の行政庁に計算の前提条件(測定点の位置、地盤面の考え方など)を事前に確認しておくことが、スムーズな許認可取得のための重要なポイントです。SketchUpの計算結果は、あくまで行政と協議するための有力な資料と捉え、対話のツールとして活用しましょう。

6. まとめ

本記事では、3DモデリングソフトSketchUpを活用した天空率の計算・解析方法について、その基礎知識から具体的なフロー、おすすめのプラグイン、そして実務で役立つ注意点までを詳しく解説しました。

天空率制度は、設計者に与えられた大きな武器であり、それを使いこなすことで建築の可能性は大きく広がります。SketchUpと専用プラグインを組み合わせることで、これまで専門的で手間のかかる作業だった天空率の検討が、設計の初期段階から誰もが直感的に行えるようになります。

これにより、設計の自由度を高めるだけでなく、法規チェックの効率化、手戻りの削減、そして最終的にはクライアントへの提供価値の向上へと繋がります。ぜひ、本記事を参考に、SketchUpによる天空率シミュレーションに挑戦し、あなたの設計プロセスを一段階レベルアップさせてみてはいかがでしょうか。

つくるAI株式会社 編集部
つくるAI株式会社 編集部
2024年7月、トグルホールディングス株式会社より分社化した「つくるAI株式会社」のメディア編集部。デベロッパー様が土地をもっと買えるようになり、売買仲介様の物件の価値の判断がより正確になるツールを提供しています。

おすすめ資料

東京の再開発

「東京の法定再開発」完全ガイド

建築基準法改正

建築基準法の改正で注意すべきこと

人気記事ランキング

サービス

デベNAVIとは

つくるAIの提供するボリュームチェックツール「つくるAI デベNAVI」についてご説明します。

タグ一覧

つくるAI株式会社はトグルホールディングスグループの一員です。

トグルホールディングスは、すべてのまちと、まちをつくる人たちのために、「不動産」「建築」「金融」に関わる様々な取引をわずか1日で完遂できる社会を実現していきます。