
【日影規制】「軒の高さ」とは?正確な算定方法と7m超の基準を徹底解説
目次[非表示]
- ・1. はじめに:日影規制と「軒の高さ」、なぜこの数値が重要なのか?
- ・2. 建築基準法における「軒の高さ」の正確な定義と算定方法
- ・2.1. 「軒の高さ」とは?建築基準法施行令第2条第1項第七号の条文解説
- ・2.2. 算定の基準となる「地盤面」の考え方と平均地盤面
- ・2.3. 「小屋組又はこれに代わる横架材を支持する壁、敷げた又は柱の上端」の具体的な見方
- ・3.「軒高7m超」が日影規制の分かれ目となるケースと注意点
- ・3.1. 日影規制対象建築物の判定基準:「軒高7m超」または「地階を除く階数が3以上」
- ・3.2. 「軒高7m超」が日影規制のトリガーとなる主な用途地域
- ・3.3. 「軒の高さ」と建築物の「最高の高さ」:定義の違いと規制上の役割分担
- ・4. 様々な屋根形状と「軒の高さ」算定の実務ポイントと具体例
- ・4.1. 寄棟屋根・切妻屋根の場合の軒高の一般的な取り方
- ・4.2. 片流れ屋根の場合の軒高の算定方法と注意すべき点
- ・4.3. 陸屋根(パラペットがある場合を含む)の軒高の考え方
- ・4.4. 軒の出がない(または少ない)デザインの建築物における軒高
- ・5. まとめ:「日影規制 軒高」を正しく理解し、適法な建築設計を
1. はじめに:日影規制と「軒の高さ」、なぜこの数値が重要なのか?
建築物を設計する際、様々な法的規制をクリアする必要がありますが、中でも「日影規制」は周辺環境への配慮と直結する重要な規定です。この日影規制の対象となる建築物を判断する基準の一つに「軒の高さ」があります。「日影規制 軒高」というキーワードで情報を探されている方は、この「軒の高さ」の正確な定義や算定方法、そしてそれが日影規制の適用にどのように関わってくるのかについて、具体的な知識を求めていることでしょう。特に「軒高7m超」という数値は、多くのケースで規制の分かれ目となるため、その理解は不可欠です。
1.1. 日影規制の概要と、建築物の規模を示す指標としての「軒高」
日影規制は、建築基準法第56条の2に基づき、主に住居系の用途地域において、一定規模以上の建築物が冬至日に周辺の敷地や道路に過度な日影を生じさせないように、その形態を制限するものです。良好な日照環境を確保し、快適な生活空間を守ることを目的としています。この規制の対象となる建築物を判定する際、建築物の「高さ」だけでなく、「軒の高さ」や「階数」といった指標が用いられます。「軒の高さ」は、特に木造建築物などの伝統的な建築形態において、建物の規模感を示す重要な指標の一つであり、日影規制においても特定の用途地域で規制対象のトリガーとなっています。
1.2. 「日影規制 軒高」:この記事で理解できること
本記事では、「日影規制 軒高」というテーマに焦点を当て、建築計画に携わる方々が正確な知識を習得できるよう、以下の点を中心に詳しく解説します。
- 建築基準法における「軒の高さ」の法的な定義と具体的な算定方法
- 「軒高7m超」という基準が日影規制の対象判定にどう用いられるか
- 「軒の高さ」と建築物の「最高の高さ」との違い、およびそれぞれの役割
- 様々な屋根形状における「軒の高さ」の考え方と実務上の注意点
この記事を通じて、「軒の高さ」に関する疑問を解消し、日影規制を遵守した適切な建築設計を進めるための一助となれば幸いです。
2. 建築基準法における「軒の高さ」の正確な定義と算定方法
「日影規制 軒高」を理解する上で最も基本となるのが、「軒の高さ」の法的な定義とその算定方法です。建築基準法施行令にその規定があります。
2.1. 「軒の高さ」とは?建築基準法施行令第2条第1項第七号の条文解説
建築基準法施行令第2条第1項第七号では、「軒の高さ」を「地盤面(第九号の規定により地階の天井が地盤面からの高さ1メートル以下にある建築物(第九号の用途に供する部分のあるものに限る。)にあつては、その地盤面からの高さ1メートルの水平面)から建築物の小屋組又はこれに代わる横架材を支持する壁、敷げた又は柱の上端までの高さによる。」と定義しています。
少し複雑な表現ですが、ポイントは「地盤面から、屋根を支える主要な構造部材の最上部までの高さ」ということです。ただし書きの部分は、特定の条件下での地盤面の取り扱いに関する補足ですが、まずは原則的な定義をしっかり押さえることが重要です。この定義に基づいて、具体的な算定方法を見ていきましょう。
2.2. 算定の基準となる「地盤面」の考え方と平均地盤面
「軒の高さ」を算定する際の起点は「地盤面」です。この地盤面は、建築基準法施行令第2条第2項で、「建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面」と定義されています。敷地に高低差がある場合は、高低差3m以内ごとの平均の高さにおける水平面をそれぞれの部分の地盤面とする、いわゆる「平均地盤面」の考え方が適用されます。
したがって、「日影規制 軒高」の算定においても、まずは正確な平均地盤面を確定させることが不可欠です。平均地盤面の算定を誤ると、軒の高さの算定結果も変わり、日影規制の適否判断に影響が出てしまいます。(参考記事:【日影規制】平均地盤面の算定方法を徹底解説!高低差・複数棟もこれで解決)
2.3. 「小屋組又はこれに代わる横架材を支持する壁、敷げた又は柱の上端」の具体的な見方
「軒の高さ」の定義にある「小屋組又はこれに代わる横架材を支持する壁、敷げた又は柱の上端」とは、具体的にどの部分を指すのでしょうか。
- 小屋組: 屋根を構成する骨組みのことです。木造建築では、垂木(たるき)や母屋(もや)、棟木(むなぎ)などから成り立ちます。この小屋組の最も高い部分ではなく、小屋組全体を支持している壁や柱などの上端が基準となります。
- これに代わる横架材: 小屋組がない陸屋根などの場合、屋根スラブを直接支持する梁(はり)や桁(けた)といった水平な構造部材を指します。
- 壁、敷げた又は柱の上端: これらの構造部材のうち、実際に小屋組や横架材を支えている部分の最上部の高さが「軒の高さ」の測定点となります。
建物の構造形式(木造、鉄骨造、RC造など)や屋根の形状によって、具体的にどの部材の上端を採るかが変わってくるため、図面と照らし合わせて慎重に判断する必要があります。
3.「軒高7m超」が日影規制の分かれ目となるケースと注意点
「軒の高さ」が日影規制の対象建築物を判定する上で特に重要となるのが、「軒高7m超」という基準です。この基準がどのようなケースで適用され、どのような点に注意すべきかを見ていきましょう。
3.1. 日影規制対象建築物の判定基準:「軒高7m超」または「地階を除く階数が3以上」
建築基準法第56条の2第1項では、日影規制の対象となる建築物について、用途地域ごとに基準を定めています。その中で、第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、および田園住居地域においては、「軒の高さが七メートルをこえる建築物若しくは地階を除く階数が三以上の建築物」が原則として日影規制の対象となります。
つまり、これらの地域では、建物の軒の高さが7mをわずかでも超えるか、あるいは地上部分の階数が3階建て以上になると、日影規制の検討が必要になるということです。「日影規制 軒高」7mという数値は、これらの地域における建築計画の初期段階で必ず意識しなければならない重要なボーダーラインです。
3.2. 「軒高7m超」が日影規制のトリガーとなる主な用途地域
前述の通り、「軒高7m超」が日影規制の直接的なトリガーとなるのは、主に以下の用途地域です。
- 第一種低層住居専用地域
- 第二種低層住居専用地域
- 田園住居地域
これらの地域は、良好な低層住宅の住環境を保護することを目的としているため、比較的低い建物であっても日影の影響を考慮するよう、厳しい基準が設けられています。一方、第一種・第二種中高層住居専用地域などでは、これらの基準に加え、地方公共団体が条例で対象建築物の高さを指定することができ、また商業地域や工業地域などでは「高さ10m超」の建築物が対象となるなど、用途地域によって「軒の高さ」の重要性が異なります。
3.3. 「軒の高さ」と建築物の「最高の高さ」:定義の違いと規制上の役割分担
建築基準法では、「軒の高さ」とは別に、建築物の「高さ」(一般的には建築物の最高の高さ)も定義されています(建築基準法施行令第2条第1項第六号)。これら二つの「高さ」は、法規制において異なる役割を担っています。「軒の高さ」は、主に日影規制の対象建築物の判定(特に低層住居専用地域など)や、一部の斜線制限(例:隣地斜線制限の起算高さに関連する場合など)で用いられます。
一方、建築物の「高さ」(最高の高さ)は、絶対高さ制限(第一種・第二種低層住居専用地域での10mまたは12m制限など)や、一部の用途地域における日影規制の対象判定(商業地域等での10m超)、そして各種斜線制限の適合判定などに広く用いられます。「日影規制 軒高」を考える際には、この「軒の高さ」と「最高の高さ」の違いを明確に区別し、それぞれの規制にどう影響するかを正しく理解することが重要です。
4. 様々な屋根形状と「軒の高さ」算定の実務ポイントと具体例
「軒の高さ」の算定は、屋根の形状によって具体的な測定箇所が異なり、実務上判断に迷うこともあります。ここでは、代表的な屋根形状ごとに、軒の高さの考え方と算定のポイントを解説します。
4.1. 寄棟屋根・切妻屋根の場合の軒高の一般的な取り方
寄棟屋根(四方に傾斜面を持つ屋根)や切妻屋根(二方向に傾斜面を持つ屋根)といった勾配屋根の場合、「軒の高さ」は、一般的に外壁の上端、または屋根の最も低い部分(軒先)を支える構造部材(例:桁や母屋の端部)の上端の高さを指すことが多いです。
重要なのは、「小屋組又はこれに代わる横架材を支持する壁、敷げた又は柱の上端」という条文の定義に立ち返り、具体的にどの部分が該当するかを図面で確認することです。軒の出がある場合は、その軒先部分ではなく、あくまで屋根を支える主要な構造体の高さで判断します。この判断が、「日影規制 軒高」7mを超えるか否かの分かれ目となります。
4.2. 片流れ屋根の場合の軒高の算定方法と注意すべき点
片流れ屋根(一方向にのみ傾斜する屋根)の場合、「軒の高さ」は、その屋根の最も低い側の外壁の上端、または屋根を支える構造部材の上端の高さと、最も高い側の外壁の上端、または屋根を支える構造部材の上端の高さの平均値で算定するのか、あるいは低い方または高い方で見るのか、解釈が分かれることがあります。
一般的には、建築基準法施行令第2条第1項第六号ロの「建築物の高さ」の算定における屋上部分の勾配屋根の扱いに準じ、片流れ屋根の場合はその最も高い部分の高さで「軒の高さ」を評価する、という考え方や、あるいは平均的な高さで見るという考え方など、特定行政庁によって指導が異なる可能性があります。そのため、片流れ屋根で軒の高さを厳密に管理したい場合は、事前に管轄の行政庁に確認することが最も確実です。
4.3. 陸屋根(パラペットがある場合を含む)の軒高の考え方
陸屋根(勾配のない平らな屋根)の場合、「軒の高さ」は、屋根スラブを支持する壁または柱の上端の高さとなります。陸屋根の周囲にパラペット(屋上の手摺壁や胸壁)が立ち上がっている場合、このパラペットの高さは「軒の高さ」に算入されるのでしょうか。建築基準法施行令第2条第1項第六号ロでは、建築物の「高さ」の算定において、屋上部分の高さ1.2m以下の手摺壁等は算入しないとされています。
この考え方を「軒の高さ」の算定に直接適用できるかは議論の余地がありますが、パラペットが屋根スラブを支持する主要な構造体ではない場合、パラペットの上端ではなく、屋根スラブを支持する壁や柱の上端を「軒の高さ」と見なすのが一般的です。しかし、これも特定行政庁の解釈を確認することが望ましいでしょう。
4.4. 軒の出がない(または少ない)デザインの建築物における軒高
現代建築では、軒の出が全くない、あるいは非常に少ない箱型のデザインも多く見られます。このような場合、「軒の高さ」は、屋根を構成する構造体(例えば、陸屋根であれば屋根スラブを支持する壁や梁の上端)の高さとなります。
「軒」という言葉のイメージから、軒先がないと「軒の高さ」がないように感じるかもしれませんが、法文上の定義はあくまで「小屋組又はこれに代わる横架材を支持する壁、敷げた又は柱の上端までの高さ」であるため、軒の出の有無にかかわらず、この定義に基づいて算定されます。この場合、建築物の「最高の高さ」と「軒の高さ」が非常に近い値になることもあります。
5. まとめ:「日影規制 軒高」を正しく理解し、適法な建築設計を
「日影規制 軒高」に関する正確な知識は、日影規制を遵守し、適法かつ合理的な建築設計を行うために不可欠です。特に「軒高7m超」という基準が適用される地域では、その算定が計画の初期段階で極めて重要となります。
5.1. 「軒の高さ」算定の重要ポイントと日影規制への影響の再確認
本記事で解説してきた「軒の高さ」に関する重要ポイントを再確認しましょう。
- 法的定義の遵守:建築基準法施行令第2条第1項第七号の定義に基づき算定する。
- 地盤面の正確な確定:平均地盤面の算定が軒高算定の前提となる。
- 構造部材の特定:屋根を支持する壁、敷げた、柱等の上端を正確に見極める。
- 屋根形状への対応:寄棟、切妻、片流れ、陸屋根など、形状に応じた適切な算定方法を理解する。
- 「軒高7m超」の基準:特定の用途地域で日影規制の対象となる重要なトリガー。
- 「最高の高さ」との区別:「軒の高さ」と建築物の「最高の高さ」は異なる指標であり、それぞれが関連する規制も異なることを理解する。
これらのポイントを総合的に押さえることで、「日影規制 軒高」に関する問題をクリアしやすくなります。
5.2. 複雑な場合の専門家への相談と正確な法的判断のすすめ
「軒の高さ」の算定は、建物の構造や屋根形状、あるいは地盤面の状況が複雑な場合、判断に迷うケースが少なくありません。また、特定行政庁によっては、細部の解釈や運用に関する独自の指導基準を設けている可能性もあります。自己判断で誤った算定をしてしまうと、日影規制の適否判断を誤り、後々大きな手戻りや法的な問題に発展するリスクがあります。
そのため、算定に少しでも疑問や不安がある場合は、必ず建築士や確認検査機関、あるいは管轄の特定行政庁に相談し、正確な法的判断とアドバイスを求めるようにしてください。専門家の適切なサポートを得ることが、適法でスムーズな建築計画の実現には不可欠です。