
Jw_cadで天空率計算は可能?無料ツールと専門ソフト連携の現実的な方法
目次[非表示]
シンプルで軽快な操作性から、今なお多くの建築設計者に愛用されている無料2D-CADソフト「Jw_cad」。日々の設計業務に欠かせないツールとして、手足のように使いこなしている方も多いことでしょう。そんなJw_cadユーザーが、天空率を適用するプロジェクトに直面したとき、真っ先に頭に浮かぶのが「使い慣れたJw_cadで、天空率の計算まで完結できないだろうか?」という疑問ではないでしょうか。
この記事では、そんなJw_cadユーザーの切実な疑問にお答えします。Jw_cad単体での天空率計算の可否を明確にした上で、外部変形ツールの活用や専門ソフトとの連携、外注サービスといった、現実的で具体的な3つの解決策を徹底比較。あなたのスキルセットやプロジェクトの状況に合わせた、最適な天空率計算のワークフローを見つけるお手伝いをします。
1. 結論:Jw_cad単体での天空率の自動計算は難しい
いきなり結論からお伝えすると、残念ながらJw_cadの標準機能だけで、天空率の複雑な計算を自動で行うことは非常に困難です。もちろん、線を引いたり面積を測定したりする機能はありますが、天空率の計算で求められる一連のプロセスをシームレスに実行することはできません。なぜ難しいのか、その理由を掘り下げてみましょう。
1.1. なぜJw_cadだけでは天空率計算ができないのか?
天空率の計算には、単なる2次元の図面情報だけではなく、建物の「高さ」の情報が不可欠です。測定点から見たときの建物の見え方をシミュレーションし、天空図を作成して、計画建築物と適合建築物の天空率を比較検証するという、一連の3次元的な解析処理が必要となります。Jw_cadは、あくまで2次元の図面作成に特化したソフトウェアであり、こうした高度な3次元解析機能は搭載されていないためです。
1.2. 2D-CADと3D(BIM)-CADの根本的な違い
ここで、Jw_cadのような2D-CADと、RevitやArchicadに代表される3D(BIM)-CADとの違いを理解しておくと、話がよりクリアになります。
2D-CAD(Jw_cadなど):
紙に図面を描く作業をデジタル化したもので、線や円などの2次元情報で建物を表現します。平面図、立面図、断面図をそれぞれ個別に作成する必要があり、各図面間の整合性は設計者が手動で管理します。
3D(BIM)-CAD:
部材(壁、床、屋根など)の3次元モデルをコンピュータ上に構築します。平面図や立面図は、すべてこの3Dモデルから自動的に切り出されるため、整合性が常に保たれます。高さ情報もモデルが保持しており、天空率や日影などの3次元的な解析が得意です。
天空率計算は、まさにこの3D(BIM)-CADが得意とする領域なのです。
1.3. 手作業での計算は現実的ではない理由
「それなら、Jw_cadで必要な図を全部描いて、手計算すれば良いのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、これも現実的ではありません。天空図上の複雑な図形の面積を、伝統的な三斜求積方式などで求めることは理論上可能ですが、膨大な時間と労力がかかります。さらに、わずかな計画変更でも、すべての計算をやり直す必要があり、ミスも発生しやすくなります。確認申請で求められる精度と効率を考えると、手作業での計算は実務上の選択肢にはなり得ないと言えるでしょう。
2. Jw_cadユーザーのための天空率計算・解決策3選
Jw_cad単体では難しいと分かりましたが、がっかりする必要はありません。Jw_cadで作成したデータを活用し、天空率計算という課題を解決するための現実的な方法は、主に3つ存在します。ここでは、それぞれの方法について詳しく解説します。
2.1. 解決策①:天空率計算用の「外部変形」ツールを利用する
Jw_cadには、「外部変形」という、ユーザーが作成したプログラム(バッチファイル)を使って機能を拡張できる素晴らしい仕組みがあります。この仕組みを利用して、有志の方々が作成・公開している天空率計算用の外部変形ツールが存在します。
特徴:
多くは無料で利用できるため、コストをかけずに天空率計算を試せます。Jw_cad上で作図した建物の情報から、天空率の計算や天空図の作成を補助してくれます。
注意点:
あくまで有志による開発のため、動作保証や専門的なサポートはありません。また、法改正への追従や、複雑な敷地条件での計算精度については、使用者自身がその妥当性を十分に検証する必要があります。確認申請でそのまま利用できるかは、慎重な判断が求められます。
2.2. 解決策②:専門の天空率計算ソフトとデータを連携させる
最も確実で、多くの設計事務所が採用しているのがこの方法です。Jw_cadで作成した平面図や配置図のデータを、天空率計算専用のソフトウェアに読み込ませて計算・検討を行います。
特徴:
「ADS-win」などの専門ソフトは、高精度な天空率計算機能はもちろん、確認申請で求められる各種図書(天空率求積図、三斜求積図など)の作成にも対応しています。法改正にも迅速に対応し、メーカーのサポートも受けられるため、安心して実務に利用できます。
流れ:
Jw_cadで作成した図面を、DXF形式やJWW形式で保存します。
天空率計算ソフト側で、そのDXF/JWWファイルをインポートします。
インポートした2D図面を元に、ソフト上で高さ情報を入力し、3Dモデルを構築して天空率を計算します。
2.3. 解決策③:天空率計算サービスを外注する
自社でソフトウェアを導入したり、計算方法を習得したりする時間がない、あるいは天空率を扱う案件が稀にしか発生しない、という場合には、計算作業そのものを専門の会社に外注するのも有効な選択肢です。
特徴:
Jw_cadで作成した図面データを渡すだけで、専門のオペレーターが天空率の計算から確認申請用の図書作成までを代行してくれます。自社のリソースを設計などのコア業務に集中させることができます。
注意点:
当然ながら外注費用が発生します。また、設計変更が生じるたびに、追加の費用や時間が必要になる場合があります。外注先との円滑なコミュニケーションがプロジェクト成功の鍵となります。
3. 各解決策のメリット・デメリット比較と選び方
3つの解決策には、それぞれ一長一短があります。あなたの状況に最適な方法を見つけるために、ここではコストや手間、精度の観点から各選択肢を比較してみましょう。
3.1. 【比較表】コスト・手間・精度で見る3つの選択肢
比較項目 | ① 外部変形ツール | ② 専門ソフト連携 | ③ 計算の外注 |
初期コスト | ◎(ほぼ無料) | △(ソフト購入費) | 〇(不要) |
手間・習熟 | △(自己学習、検証の手間) | △(ソフトの操作習熟) | ◎(手間いらず) |
計算精度 | △(自己責任で要検証) | ◎(高精度) | ◎(専門家が実施) |
信頼性・サポート | ×(保証・サポートなし) | ◎(メーカー保証・サポートあり) | 〇(委託先による) |
柔軟性 | 〇(手軽に試せる) | ◎(設計変更に即時対応) | △(都度依頼が必要) |
3.2. あなたに合った解決策は?ケース別の推奨プラン
上記の比較を踏まえ、どのようなケースでどの解決策が向いているかを考えてみましょう。
「とにかくコストをかけず、一度試してみたい」という方:
まずは①外部変形ツールの利用を検討するのが良いでしょう。天空率計算の基本的な流れを掴むのに役立ちます。ただし、実案件の確認申請に使う場合は、その計算根拠を徹底的に自己検証する覚悟が必要です。
「今後も継続的に天空率を扱う案件がある」という設計事務所:
②専門ソフトの導入が最もおすすめです。初期投資はかかりますが、長期的に見れば、作業効率の向上と設計品質の担保という大きなリターンが期待できます。Jw_cadとのデータ連携もスムーズなソフトを選びましょう。
「天空率の案件は今回限り」「とにかく時間がない」という方:
③計算の外注が賢明な判断です。餅は餅屋に任せることで、不慣れな作業に時間を取られることなく、プロジェクト全体を円滑に進めることができます。
4. Jw_cadと天空率計算の理想的なワークフロー
多くのJw_cadユーザーにとって、最も現実的で効果的なのは「②専門ソフトとの連携」です。ここでは、その理想的なワークフローと、データ連携をスムーズに行うためのコツを紹介します。
4.1. 基本設計はJw_cad、天空率計算は専門ソフトへ
Jw_cadの強みは、2D作図における軽快な操作性と、長年培われた作図ノウハウの蓄積です。この強みを最大限に活かし、基本設計や各種申請図面の作成は、使い慣れたJw_cadで行います。そして、天空率の検討や計算・図書作成といった高度な解析が求められる部分だけを、専門のソフトウェアに任せるのです。この「適材適所」の考え方が、Jw_cadユーザーの生産性を最も高めるワークフローと言えるでしょう。
4.2. データ連携をスムーズにするための注意点(DXF/JWW形式)
Jw_cadから専門ソフトへデータを渡す際には、ちょっとした準備で後の作業が格段に楽になります。
レイヤーの整理: 天空率計算に必要な線(敷地境界線、道路境界線、建物輪郭線など)と、不要な線(寸法線、文字、建具など)を、あらかじめレイヤーで分けておきましょう。専門ソフト側で、必要な情報だけを効率的に取り込めます。
原点の統一: 各図面の原点位置を合わせておくことで、専門ソフト上で図面を重ね合わせる際の作業がスムーズになります。
閉じた図形: 建物輪郭などのポリラインは、隙間なく閉じた状態で作図しておくことが重要です。開いた部分があると、ソフト側で正しく領域を認識できない場合があります。
これらの準備を怠ると、専門ソフト側でのデータ修正に余計な時間がかかってしまいます。日頃から整理された作図を心がけることが、効率的な連携の第一歩です。
5. まとめ
今回は、多くのJw_cadユーザーが抱える「天空率計算」という課題について、その解決策を多角的に解説しました。
結論として、Jw_cad単体で天空率計算を完結させるのは現実的ではありません。しかし、それはJw_cadが劣っているということではなく、役割が違うということです。2D作図ツールとしてのJw_cadの強みを活かしながら、天空率計算は「外部変形ツール」「専門ソフトとの連携」「外注」といった、適切なパートナーに任せるのが賢明な選択です。
特に、継続的に天空率を扱うのであれば、専門ソフトとの連携ワークフローを確立することが、設計品質と生産性を両立させるための最も確実な道筋となります。
あなたのスキル、予算、プロジェクトの状況に合わせて最適な方法を選択し、Jw_cadを最高の相棒として、これからも素晴らしい建築を生み出してください。